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新近江名所図会

新近江名所圖會 第249回 遺跡があった証-国道下の塩津港遺跡の展示板

長浜市
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バイパス下の地下道に展示板がある

我々の仕事である発掘調査は、工事によりやむを得ず破壊される個所のみ行います。このような行為を記録保存というのですが、調査が終わった後には壊れた遺跡が残り、間もなく工事が行われます。現地説明会を行うと、「すごい遺跡だ。これからどのように保存されるのか。」とよく質問されますが、残念ながら発掘された部分はほとんどが残ることはありません。その代り、調査で出土した土器や木器などの遺物、調査で作成した実測図、撮影した写真などは整理調査の後、発掘調査報告書というかたちで永久に残されていきます。時には工事側で展示板などが設置され、かつて遺跡があったことが後世まで残るよう配慮されることもあります。
今回紹介するのは、平成24年・26年・27年度に実施した、長浜市西浅井町塩津浜の国道8号バイパスに伴う塩津港遺跡の展示板です。
賤ヶ岳トンネル・新藤ケ崎トンネルを抜け、旧国道8号を右手にみながらバイパスを行くと、大きく右に曲がるカーブに差し掛かります。このカーブの下には塩津浜集落から湖岸の公園へ安全に行くために、地下道が設置されています。この地下道部分が平成26年度・27年度に渡って発掘調査され、国内でも類を見ない埋立てにより築かれた港遺構がみつかりました。この港遺構こそ、古い文献に登場する「塩津港」だったのでした。塩津港の詳細については、話し始めたらきりがないほど濃厚な内容ですので、過去の名所圖會やオススメの逸品などをご覧ください。

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地下道と展示板
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3枚の展示板

 

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さて、地下道に設置された展示板のデザインは、調査担当によるものす。展示板は合計3枚あり、1枚目は担当者の手により3箇年にわたる調査でみつかった遺構の合成写真からなります。2枚目はみつかった護岸施設の紹介と、その模式図からなります。3枚目は想像復元図であり、水彩画のタッチが雰囲気出してます。
いずれもシンプルな内容ですが、遺跡の内容は非常に複雑で、出土遺物量もとんでもない量です。すべてを語るには3枚の展示板に収まるものではないので、見る人がイメージし易いデザインになっていると思います。
この仕事を長くしていると、調査後の遺跡が道路や河川などになっていくのを何度も目にします。若い頃は悲しかったのですが、恐ろしいことにだんだんと慣れてきてしまいます。このような展示板という「遺跡があった証」があれば、初心を忘れずにがんばっていけるような気がします。

重田 勉

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