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新近江名所図会

新近江名所図會第222回 金勝山と産業遺産「オランダ堰堤(えんてい)」

大津市栗東市
写真1 オランダ堰堤の遠景
写真1 オランダ堰堤の遠景
写真2 石切の痕跡(矢穴)
写真2 石切の痕跡(矢穴)
写真3 堰堤から流れ落ちる水
写真3 堰堤から流れ落ちる水

大津市と栗東市にまたがる金勝山の麓にオランダ堰堤があります(写真1)。このオランダ堰堤は明治時代に建設された砂防堰堤で、ハイキングコースの入り口の一つ、上桐生のバス停から草津川を少し上流側へ向かった付近にあります。
砂防堰堤とは、土砂災害を防ぐための施設です。この堰堤は、草津川の土砂災害を防ぐために明治15年頃から明治22年頃にかけて建設されました。「オランダ」という名前は、明治時代に日本に招かれて木曽三川の治水工事などを指導したオランダ人技術者ヨハネス・デレーケに由来するようです。ただし、デレーケがこの堰堤の工事に関わったかは明らかではないようです。実際に設計したのは田邊義三郎という日本人技官とされており、日本の産業遺産300選にも選ばれています。
建築されてから130年あまり経過した現在も、花崗岩の切り石を積んだ堤は健在ですが、堤の上流側は砂で満たされています。完成当初、堤の上流側に砂はほとんどたまっていなかったと思われます。この砂が防災上重要なポイントです。金勝山は、おもに墓石などに使われる花崗岩でできた山です。花崗岩は風化しやすく、風化すると大量の砂が発生します。砂が下流へ流れると、川底にたまることで川底の高さが上昇し、増水時の堤防決壊の原因となります。とりわけ、金勝山では古くから樹木を伐採していて、伐採による地面の露出が砂の流出に拍車をかけました。その対応に苦慮した明治政府は砂防堰堤を築くとともに、山への樹木の植林事業を積極的に進めました。現在でも下流での水害を防ぐために、砂防堰堤は重要な役割をはたしているのです。
オランダ堰堤は幅34m・高さ7mで、花崗岩の切り石を階段状に積み上げて築かれています。現在でも川原の花崗岩の石に「矢穴」とよばれる石切りの痕跡(写真2)が残っていますので、石材は近場で調達したのかもしれません。堤の中は石灰を混ぜた赤土をたたき固めてあるとされています。堤を真上からみると上流側に向かって膨らむアーチ構造になっています。そのため、堤を越えて下流へ流れる水は堤の中心付近に集まります(写真3)。この構造が水の流れによる、堤の崩壊を防いでいると考えられています。このように、オランダ堰堤は明治時代から治水に重要な役割を果たしましたが、現在明治時代の姿をとどめる堰堤は少なく、歴史的に貴重なものであるといえます。
4月に入りめっきり温かくなり、桜の満開も間近でしょう。春の行楽シーズンに金勝山の軽登山はいかがでしょうか。
(加藤達夫)
●おすすめPoint
金勝山の尾根筋には花崗岩が露出していて、長い時間風雨にさらされて色々な形になっています。天狗岩・耳岩・重ね岩など名前がついて、カッパドキアの奇岩みたいな不思議な風景がみられます。岩に登れる場所もあり、お天気の良い日には最高の眺めを楽しむことができます。
●アクセス
JR琵琶湖線「栗東駅」下車 車40分
名神高速道栗東ICから25分

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