記事を探す

新近江名所図会

新近江名所圖会 第70回 醒井(さめがい)-清流のある中山道の宿場町-

米原市
米原市醒井
ヤマトタケルの胴像
ヤマトタケルの胴像

JR東海道線を米原駅から東へ向かうと、「醒ヶ井」駅があります。駅名とは異なり、地名は「醒井」と表記されます。古くは『古事記』『日本書紀』にも登場し、傷ついたヤマトタケルがこの地の霊水で身体を癒したことが記されています。地名はこの記事に由来するといわれ、加茂神社の境内脇の石垣から湧き出る地蔵川の源流「居醒の清水(いさめのしみず)」は、環境省の選定する「平成の水百選」にも選ばれています。
また、醒井は中山道の宿場町としても知られています。中山道は江戸時代の幹線道路のひとつで、徳川二代将軍秀忠の頃ほぼ完成したといわれています。往時には旅籠、問屋場などが軒を連ねるにぎわいでした。江戸時代に中山道の観光名所を描いた『木曽路名所図会』にも登場しており、「この駅に三水四石の名所あり 町中に流れ有りて 至って清し 寒暑に増減なし・・・」と、醒井宿のようすを描いています。現在も当時の建物が十軒ほど残っており、往時がしのばれます。

醒井宿資料館
醒井宿資料館

そして醒井宿で忘れてはならないのが、“かき餅”です。当時は【「醒井餅」といえば“かき餅”】といわれたほど名をはせました。さきほど紹介した『木曽路名所図会』には、清水の前の茶店で、名産のかき餅が売られていたことが記されています。
焼かれる前の幅4㎝弱、長さ16㎝ほどのかき餅で赤・白・黄色の3色があったようです。宿場町の衰退とともに姿を消しましたが、最近では復刻された10㎝四方ほどのかき餅を焼いた状態で味わうことができます。
醒井宿のようすは、街道筋にある「醒井宿資料館」で紹介されています。資料館は昭和48年まで郵便局として利用されていました。大正時代に立てられた2階立ての洋風木造建築で、建造物としても貴重です。
さらに、醒井は、中山道の前身「東山道」の「横川駅家(よこかわのうまや)」候補地のひとつとしても知られており、古くから栄えたことがわかります。

おすすめPoint

地蔵川と「梅花藻」
地蔵川と「梅花藻」

街道筋を流れる地蔵川は年中水温14度を保ち、清流にしか生育しない魚「ハリヨ」を見ることができます。春夏秋冬、四季折々に楽しめますが、なんといっても、夏の「梅花藻(ばいかも)」は見逃せません。清流にしか生育しないキンポウゲ科のこの水中花は、7月下旬~8月頃に梅の花に似た小さな可憐な白い花を咲かせ、水中の藻の緑と花の清楚な白の対比が力強く、鮮やかです。
8月下旬になると、地蔵川の脇に生える百日紅(さるすべり)がその上に赤い花を散らし、華やかな光景に一変します。水量によってもまったく違う景色となるので、好みの情景を探したくなります。毎年8月下旬にはライトアップされる期間があり、艶やかで幻想的な趣を楽しむことができます。
梅花藻の季節、毎年8月23・24日両日には、延命地蔵を供養する「醒井地蔵まつり」が開催されます。江戸時代後半には曳山4基が巡行され子供狂言が奉納される大変大がかりな祭りでした。地域には曳山を出すための庄屋の許可証が残っています。これには火の用心のほか、博打など勝負事の禁止、喧嘩・口論の禁止、通行人の妨げにならないようになど記されていて、祭りの賑やかさが伝わってきます。この催しも中山道の衰退にともなって、明治時代以降は曳山の技術を活かした変装行列や「つくりもの」へと変化していきました。

「つくりもの」2011年優勝作品
「つくりもの」2011年優勝作品

近年は住民手作りの「つくりもの」で彩られます。「つくりもの」とは、昔話や地域の風物、世相を反映したものなどをモチーフにした等身大ほどのジオラマで、1か月ほどかけて準備されます。これまでには“鴨とり権兵衛”や“鶴の恩返し”、“マイケル・ジャクソン”、“ゴルファー石川遼”などがあります。ちなみに今年2011年は、“証城寺の狸囃子”、“浅井三姉妹”、“震災復興祈念の宝船”など15体が並びました。露天も多く出店し、祭りににぎわいを添えています。

周辺のおすすめ情報

◇醒井養鱒場(さめがいようそんじょう


明治11年(1878年)に設立された、国内で最も古いマスの養殖施設場です、ニジマスの養殖でも知られますが、近年では“琵琶湖のトロ”といわれるビワマスの養殖にも成功しています。静かな木立のなかにある施設内にはマスをはじめとした複数の水槽があり、水族館としても堪能することができ、また新鮮なマス料理を味わうことができます。なお、養鱒場のある醒井峡谷は、昭和16年に国の名勝に指定されています。

◇醒井木彫美術館

醒井は、200年の伝統を持つ木彫りの里としても知られ、社寺建築物や花鳥、仏さまなど、繊細で多様な彫刻に出会うことができます。

まだまだたくさん、見どころにあふれます。いにしえより知られ、江戸時代の名所図会にも書かれた醒井。街並みは変わっても、歴史の息づかいを感じ、清流とともにある「醒井」はいまもやっぱりはずすことのできない、近江の誇る名所と言えます。

アクセス

【公共交通機関】JR東海道本線醒ヶ井駅下車、徒歩5分
【自家用車】名神高速道路米原IC下車10分、醒ヶ井駅駐車場利用、「梅花藻」のシーズンには臨時駐車場あり


より大きな地図で 新近江名所図会 第51~100回 を表示

(中川 治美)

Page Top