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新近江名所図会

新近江名所圖會第220回 日本海と琵琶湖を結ぶ―旧北陸線(柳ヶ瀬線)―

長浜市
写真1 柳ヶ瀬トンネル
写真1柳ヶ瀬トンネル
写真2 「萬世永頼」の扁額
写真2 「萬世永頼」の扁額
写真3 旧中之郷駅ホーム
写真3 旧中之郷駅ホーム

北陸新幹線のルート決定から目が離せません。JR西日本が小浜ルートをあらたに提案したことなど,北陸新幹線が滋賀を通過しない可能性も云々されているのです。もちろん,滋賀県としては,米原ルート,湖西ルート。そもそも,日本海(敦賀)と琵琶湖(滋賀)を結ぶ交通の整備は,古くは平清盛の運河計画など,滋賀県・近江にとっての重要課題でした。こうした長い歴史があるがゆえに,明治17年(1884年)という早い時期に,敦賀(金ヶ崎)-長浜間の鉄道が開業しているのです。
さて,敦賀-長浜の鉄道ルートは,1871年に測量着手,1876年には具体的な計画が立案されます。当初は高月から木之本を経由せず西山に向かい,そこから塩津,深坂峠を経て疋田に至るルートでした。しかし,西南戦争による財政逼迫や沿線住民の反対などから認可されず,1880年には,木之本から中之郷(余呉),柳ヶ瀬を経由し,刀根から疋田に通じるルートに変更しました。これによって工事に着手,4年後の鉄道開通へと続きます。なお,この路線は1957年に木ノ本-敦賀間の新線(現北陸本線)開通により,柳ヶ瀬線として分離されました。しかし,営業係数1145と言う超赤字のため,1964年に鉄道廃止,国鉄バス,JRバスが運行されますが,このバス路線も2002年には営業を停止します。
今回は,この旧北陸線ルートを訪ねてみることにしましょう。何といっても,柳ヶ瀬トンネルがお目当てです(写真1)。当初の測量はイギリス人技師によるものでしたが,その後の設計・施工は日本人のみで行った,記念すべき近代化の遺産です。全長は1352m,日本初のダイナマイト工事も含め,当時の予算で約42万5千円を費やした大工事でした。今日では公共交通は運行していませんが,県道として自動車での通行が可能になっています。
トンネル内部は,急な片勾配で断面積も狭く,敦賀から長浜に向かう列車にとっては,大きな難所となっていたことが体感できます。ここを蒸気機関車D51が走っていたとは,ちょっと想像が難しいくらいです。大量に発生したヤスデの油による空転事故などは今では微笑ましくも思えますが,1928年12月には貨物列車がトンネル内で立ち往生。合計5名が犠牲となる事故も発生しています。工事はもちろん,列車の運行も如何に厳しいものであったか,容易に想像できる迫力が続きます。もちろんトンネル内に線路はなく,上部のレンガがコンクリートで固められているなどの改変も多いのですが,基部の石組はほぼ開業当時のままで,待避所も多く残されています。また,柳ヶ瀬トンネルを特徴付ける柳ヶ瀬口の「隧道幕」の痕跡もトンネル上の国道365から観察できます(ちなみに,隧道幕とは,トンネル口に設置した開閉式の大きなカーテン状の幕のこと。列車がトンネル内に入ると手動で幕を閉め、トンネル口から風がはいって列車に煤煙が取りまくことを防いでいました)。急こう配で,薄暗く,狭いトンネルに歴史を感じることはもちろん,お化けトンネルとして,単純に楽しむこともOKです。ただし,交互通行の現役トンネルなので駐停車は論外!出入り口の急カーブを含めて,走行には十分な注意をお願いします。なお,トンネル入り口(東口・柳ヶ瀬口)の横に,近代化遺産・土木遺産のプレートと並んで伊藤博文書の「萬世永頼」の扁額が展示されていますが(写真2),これはレプリカで,本物は長浜の鉄道スクエアにあります。
余呉の町中まで下ったら,旧中之郷駅のホームも見逃せません(写真3)。廃線跡を利用した国道365号に沿うように保存されています。規模から,その一部が保存されていると思われますが,低いプラットホームの雰囲気をよく残しています。ただし,駅名表は保存を記念して再現されたもので,オリジナルではありません。
その他,柳ヶ瀬駅の跡は現在のバス停付近にあって,背後の草地ではホームの痕跡が解かるとも言われています。(私は確認しておりません。)また,福井県側ですが,柳ヶ瀬トンネルの刀根口は旧状をよくとどめており,付近の小刀根トンネルや,集落内に保存されている刀根トンネルの要石もお勧めです。
●その他の見どころ
滋賀と北陸を結ぶ交通ということでは,「柳ヶ瀬本陣」跡も見逃せません。柳ヶ瀬集落内の中央付近,立派な長屋門の横に明治天皇行在所の碑が立っています。この長屋門は嘉永2年(1849年)に,彦根藩の柳ヶ瀬関所の関守であった柳瀬家の屋敷門として建築されたもので,明治11年の行幸に際して移築されました。
●アクセス
基本的には,車での見学がおすすめ(北陸自動車道 木之本インターから 国道365号線を北上 約25分)。
公共交通の場合は,JR木之本駅および余呉駅から 余呉バス 柳ヶ瀬線 雁ヶ谷下車(ただし,柳ヶ瀬トンネル内部は徒歩不可のため見学できません)。

(細川修平)

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