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オススメの逸品

第179回 調査員オススメの逸品 発掘調査現場の原動力!―遺跡と“作業員さん”のはなし―

守山市
写真1 遺構を探す作業中の作業員さん
写真1 遺構を探す作業中の作業員さん

私たちは、現地での発掘調査を進める上で、多くの方々の力をお借りしています。以前、逸品でも紹介した調査員の心強い“右腕”である「調査補助員さん」(おすすめの逸品No.134)も、その仲間のひとりです。今回は、我々にとって力強い「作業員さん」を紹介しましょう。
当協会では、発掘調査を進めるにあたり、主に近隣の方々に作業員として来ていただき、現地での発掘作業に参加していただいています。具体的に、遺構検出(昔の構造物等の痕跡探す作業)、遺構掘削(発見した構造物等の痕跡を掘削していく作業)などなど、作業の種類も多岐にわたります(写真1)。
真夏の炎天下の中、真冬の厳しい寒さの中、ときには小春日和の心地よい暖かさの中で、それぞれの道具を手に作業をしてくださるその勇姿は、我々としても本当に心強いものです。ときには年の功?で、「この作業、もっとこうした方が効率がいいんじゃないか?」「もっと楽に作業を進めるためにこんな道具を作ってきたで!」と、若輩の私が現場作業を進めるにあたって、的確なアドバイスをいただくこともあります。
そんな作業員さんに、この仕事に就いての感想をうかがってみました。

Q:「発掘作業に参加された感想はいかがですか?」
A:「何も出なかったらさみしいけど、土器が出てきたら本当に楽しい!」
A:「発掘って、ハケやヘラで土器を掘り起こすだけの楽な作業と思っていたら、結構力仕事が多くて参った!」
A:「人生で一度、こういうロマンのある仕事に関わりたかった!」
A:「発掘現場でたくさんの友達ができた!この歳でこんなに友達ができるとは思わなかった!」
このように、発掘調査に対して様々な回答をいただく中、私の心をつかんで離さない答えがありました。
A:「自分の生まれ育った土地の歴史を少しでも知りたかった!子供や孫、近所の人達に、うちの近くにこんな凄いものがあったことを教えてあげたい‼」

作業員さんと話をしていると、このように発掘調査をきっかけに地元の歴史に興味を持っていただいた方が本当に多いことを実感しました。そんな地元の人たちを中心にして、文化財によるまちづくりへとつなげることができれば!私自身、調査員としてそんな夢を抱いています。

写真2 講演中の土山さん
写真2 講演中の土山さん
写真3 鮒ずしの試食会
写真3 鮒ずしの試食会

ではここで、遺跡と作業員さんとを巡る、ひとつのエピソードを紹介します。
現在、守山市にお住いの土山博子さんは、守山市の作業員さんです。発掘調査に初めて携わったのは平成元年から。たまたま自宅の近くで発掘調査が実施された際に、作業員として参加されました。初めての発掘調査現場は、土山さんにとって、あまりにも刺激的だったそうです。
「土の色をみて、大昔の建物のありかがわかる??」「土器の形をみることで、作られた時代がわかる!?」「これは、ただの穴掘りじゃない!!!」
参加して二日目にはすっかり発掘調査のトリコになってしまったと、土山さんは嬉しそうにその当時のことを語ってくれました。
そしてこの数年後、土山さんは作業員として、大きな転機となる遺跡に出会うことになります。それが、「下之郷遺跡」(滋賀県守山市)です。巨大な三重の濠に囲まれた弥生時代中期の大集落で、その規模は7haに及ぶと想定されており、平成14年に国史跡に指定されました。精緻な文様が施された弥生土器、美しく加工された木製品。この類まれな遺物の数々を前にして土山さんは即座にこう考えたといいます。
「この遺跡を保存して、未来に伝えなければ!!!」
こうして、当時の調査員とともに、土山さんの長きにわたる奮闘が始まったのです。(この奮闘記については、あまりにも濃密な内容なのでいずれ機会を改めて…。)
国史跡下之郷遺跡では、現在土山さんを中心に多くの人が集い、遺跡の保存活用のための活動が行われています。発掘調査が始まった当時、作業員さん達が保存に向けて立ち上げた勉強会は、現在は遺跡の活用団体として、様々な催し物等を通じて、遺跡の楽しさ、面白さを伝えておられます(写真2)。その活動を参考にしようと、全国各地の文化財担当者が見学に来られることもあるそうです。
かつて、発掘調査に携わった作業員さん達の想いは、今や市のまちづくりを進めるにあたって、決して欠かすことのできない大きな存在にまで成長していったのです。

最後に土山さんはこんなことを語ってくれました。
「私がここまでこれたのは、たくさんの人達との繋がりがあったから。遺跡の勉強をするにしても、みんなでお茶を飲んだりご飯を食べたりしながら、にぎやかに学ぶことで、人と人との繋がりも深まっていくものよ。」
私が土山さんの取材に訪れた日は偶然にも、下之郷遺跡の活用団体のひとつ「稲と雑穀の会」の皆さんが赤米で漬けた鮒ずしを食べてみよう!というイベントの日でした(写真3)。美味しい鮒ずしに舌鼓をうちながら、土山さんの一言を強く実感した一日になりました。

遺跡を通じて出会った人と人、そんな人達の織りなす物語が、より多くの人達にとっての「逸品」となりますように。
(木下義信)

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