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新近江名所図会

新近江名所圖會 第251回 遺跡めぐりの強いミカタ-遺跡説明板その1 近江国庁編

大津市
写真1
写真1 近江国庁跡 全体の説明板
写真2
写真2 木製外装基壇の説明板
写真3
写真3 復元された築地と建物
写真4
写真4 復元された建物内に取り付けられた説明板
写真5
写真5 平面図がついた説明板
写真6
写真6 近江国府外の様子も書かれた説明板
写真7
写真7 瀬田廃寺跡の説明板

文化財として指定されている神社や寺院、あるいは城といった建築物などを訪ねると、大概はその対象となる文化財についての説明が書かれた案内板を目にします。いずれも石造、金属・コンクリート等でできています。これは文化財保護法に定められた設置基準で、硬く丈夫なものでできています。案内板は建築物だけでなく、石燈籠や石塔などの石造物や仏像、または近江国庁跡のように史跡に指定されているような遺跡でもみることができます。まさに「文化財のあるところ説明板あり」といった感じです。この説明板があるおかげで、私たちはなんの知識もなくその場所を訪れたとしてもその文化財についての概要を知ることができます。
今回は、これら幾多もある説明板のうち、近江国庁跡に設置されているものにスポットをあててみたいと思います。近江国庁については、このシリーズの第85回目「古代の滋賀県庁-近江国府跡」で紹介されています。
国指定の史跡である近江国庁跡は、政庁域を中心に整備されており、一部では発掘調査の成果に基づいて建物なども復原されています。まず、政庁のすぐ近くには、案内板とは別に「近江国衙跡」と刻まれた堂々たる石碑が建っています。この石碑は記念碑というものではなく、文化財保護法に定められた、国指定史跡などの指定物件を表示する標柱で、史跡、名勝、天然記念物を管理するための目印です。「近江国衙跡」と書かれた石碑の横にも説明板があります(写真1)。この説明板は、ご覧のように木造のものに金属板の説明書きを貼り付けたものとなっており、近江国庁全体の説明をしています。遺跡全体の説明ということもあり、屋根までついた立派なものです。ちなみに説明書きの金属板は2枚ありますが、右は説明文、左は政庁の平面図や復原図および国庁を中心とした国府域の図となっています。ただ、その内容の一部については、現在となってはやや古いものとなっています。
次にみる説明板(写真2)は、政庁の東側でみつかった築地に囲われた区画と木製外装基壇を持つその中心建物に伴うものです。築地は一部復原され、中心建物ではありませんが、建物も1棟復原されています(写真3)。
こちらの説明板は、鉄製のフレームに金属板の説明書を取り付けた構造になっており、地面近くに斜め向きに設置されています。説明文のほか、発掘当時の写真もあります。
(写真4)は復原された建物内に設置されたもので、近江国庁の説明書とともに半世紀ほど前に発掘した折の写真がついています。
ただし現在では、諸般の事情によりこの説明板は取り外されているため、ご覧いただくことはできません。
次の(写真5)の説明板も先に紹介した(写真2)のものと基本的には同じ構造になっており、同時期に設置されたであろうことは想像に難くありません。政庁の北東側でみつかった掘立柱建物に関する説明書きになっており、ここでは写真ではなく、みつかった遺構の平面図となっているところが(写真2)と違う点です。
ここまでは整備された近江国庁内に設置されたものをとりあげました。次に紹介するものは、開発に伴い発掘を行った場所に設置されたものです。場所は近江国庁の西側にあたり、遺跡の内容は国庁の関連施設、つまり近江国府の一画をなす部分となります。
発掘調査は、県営住宅の建て替えに伴って行われました。その調査成果を記したものがこの説明板(写真6)です。この説明板は県営住宅の駐車場の片隅に設置されています。
今回は1つの遺跡の中にある5つの説明板を紹介しました。いずれも滋賀県教育委員会が文化財保護法の標識等の設置基準に従って設置したもので、単なる説明内容だけでなく、指定年月日や指定理由、指定にかかる図面なども示されています。また、指定範囲を示す標柱や説明板は、環境にも調和するよう定められていますので、目立ち過ぎず地味過ぎない、景観に考慮された姿にデザインされています。ひとくちに説明板といってもさまざまな内容や見た目であることがわかります。ただ、個々の違いはありますが、どの説明板も限られたスペースの中でいかにわかり易くするかという工夫がみられます。何度も見たことのある遺跡も異なった視点からみてみると新たな発見があるかもしれません。

周辺のおすすめ情報
近江国庁の西、名神高速道路沿いに古代寺院の跡があります。瀬田廃寺と呼ばれ、国府に関連する寺院と考えられています。現在では塔跡の礎石が残るのみですが、ここにも遺跡説明板はあります。ここのものは大津市教育委員会によって設置されたもので、時代劇にでてくるような高札板風となっていて、少し趣のある説明板となっています。

アクセス
【公共交通機関】JR琵琶湖線石山駅下車 近江バス瀬田駅行きほか 神領団地下車 徒歩5分
【自家用車】名神高速道路瀬田東IC・瀬田西ICから5分、建部大社のみ駐車場あり

内田保之

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