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新近江名所図会

新近江名所圖會 第278回 古琵琶湖層重粘土地帯の風景 甲賀市みなくち子どもの森自然館ほか 甲賀市

甲賀市

JR草津駅から草津線に乗車し、三重県柘植方面へ向かうと、しばらくは阿星山や岩根山といった急峻な山並みが続きます。しかし、貴生川駅を過ぎてからは一転して、なだらかな丘陵地帯となり、車窓からは里山の風景をみることができます。この風景の変化は、この甲賀地域を形づくる基盤の大部分が粘土層から成り立っていることに起因します。やわらかい粘土層からなる丘陵部は、長い年月をかけて浸食が進み、開析谷(かいせきこく)が奥深く侵入して、樹枝状(じゅしじょう)の複雑な谷がみられる、この地域特有の景観を生み出したのです(写1)。

写2 古琵琶湖層(甲賀市甲賀町小佐治)
写2 古琵琶湖層(甲賀市甲賀町小佐治)
写1 古琵琶層重粘土地帯の風景(甲賀市甲賀町小佐治)
写1 古琵琶層重粘土地帯の風景(甲賀市甲賀町小佐治)

それでは、この粘土層が大昔の琵琶湖とかかわっていることはご存知でしょうか。琵琶湖は、約430万年前に三重県の上野盆地で誕生し、その形や大きさを変えながら南から北へ移動して、現在の琵琶湖になったと考えられています。この甲賀地域は、ちょうど琵琶湖が移動した道筋にあたり、約230万前には巨大な湖である甲賀湖があったと考えられています。この地域に分厚くたまった粘土層のことを「古琵琶湖層」と呼び、長く深い湖であった時代に堆積したものです(写2)。そして、ここからは、さまざまな動植物の化石が見つかっています。絶滅種の淡水貝、魚やスッポン、シカやイノシシの骨、ワニの歯のほか、ゾウの足跡化石など、当時の湖沼で繁栄する生き物たちの豊かな姿を現在の私たちに教えてくれます(写3・4)。

写4 約230万年前の甲賀地域(みなくち子どもの森 自然館)
写4 約230万年前の甲賀地域(みなくち子どもの森 自然館)
写3 古琵琶古層群から採集された化石(みなくち子どもの森 自然館)
写3 古琵琶古層群から採集された化石(みなくち子どもの森 自然館)

甲賀地域では、この粘土をズニン、ズリンコなどと呼んでいますが、これは古琵琶湖層が地域の暮らしに密接にかかわっていることを示しています。地域の人びとは、古琵琶湖層の重粘土に対処する伝統農法を生み出し、その特性を活かして滋賀羽二重餅などの特産品を生み出した長い歴史があるのです。
最後に、現在の古琵琶湖層が、多くの生き物たちを育んでいることも知っておく必要があるでしょう。ここの丘陵地帯は「カスミサンショウウオ」の生息地の集中地としても知られますが、丘陵の谷につくられた水田の土堀り水路が彼らの産卵地のひとつとなっています。約230万前に堆積した古琵琶湖層が、人と自然が調和した里山の風景をつくりだしたといえるでしょう。

●おすすめPoint
ここでは、古琵琶湖層と自然、この地の暮らしを知ることができる施設を紹介します。
まずは「甲賀市みなくち子どもの森 自然館」(写5)。子どもから大人まで甲賀の里山を楽しめるみなくち子どもの森と、甲賀の自然をテーマにした博物館からなります。古琵琶湖層のこと、甲賀地域の自然や生き物をもっと知りたい方におすすめです。
「甲南ふれあいの館」は、甲賀地域の民具を展示している郷土資料館(写6)。ここでは古琵琶湖層重粘土地帯の伝統的な農具や暮らしの道具を見ることができます。

写6 甲南ふれあいの館(甲賀市甲南町葛木)
写6 甲南ふれあいの館(甲賀市甲南町葛木)
写5 みなくち子供の森自然館(甲賀市水口町水口)
写5 みなくち子供の森自然館(甲賀市水口町水口)

当地でのお食事やお土産をお探しの方は、「甲賀もちふる里館」(写7)。古琵琶湖層の土壌で生み出された滋賀羽二重餅は、きめが細かく、かみごたえがあり、よく伸びるのが特徴です。よもぎあんもち、米粉を使ったロールケーキなどのスイーツもあり、軽食コーナーでは米そうめんや米めんグラタンなどの多彩なメニューがあります。

●アクセス
・「甲賀市みなくち子どもの森 自然館」へは、JR草津線「貴生川駅」から徒歩20分
・「甲南ふれあいの館」へは、JR草津線「甲南駅」から徒歩15分
・「甲賀もちふる里館」へは、新名神高速道路甲南ICより車で約20分

写7 甲賀もちふる里館(甲賀市甲賀町小佐治)
写7 甲賀もちふる里館(甲賀市甲賀町小佐治)
(林修平)

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