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新近江名所図会

新近江名所圖會 第366回 安土城と同年代の神社建築―近江八幡市安土町・奥石神社―

近江八幡市
写真1 名所図会にみえる奥石神社
図1『近江名所図会』にみえる奥石神社

歴史好きのかたの中でも戦国時代や安土桃山時代は特に人気の高い時代かと思います。私もその一人で、休みの日にはお城めぐりなどをすることもあります。
ただ、お城めぐりはもちろん楽しいのですが、安土桃山時代以前の城郭建築が現地に残っている事例は極めて少なく(寺社への移築例は除きますが…)、当時の建物を現地で具体的にイメージするのはなかなか難しいのが現状です。
一方で滋賀県内の神社やお寺には戦国時代~安土桃山時代の建築が比較的多く残されているため、城郭とセットで見学することで、戦国時代~安土桃山時代をより深く理解できるのではないかと考えています。こうした思いもあって、最近では城めぐりに飽き足らず寺社仏閣めぐりも趣味のひとつとなってきました。「新近江名所図会第321回」で紹介した草津市の新宮神社本殿は戦国時代の大永3年(1523)に建てられたものですが、今回は安土桃山時代の神社建築が残る奥石(おいそ)神社をご紹介したいと思います。
奥石神社は近江八幡市安土町東老蘇に所在します。歌枕として知られる「老蘇の森」を鎮守の森(社叢)としており、中山道沿いに位置することから紀行文などにもたびたび記されてきました。『近江名所図会』にもその情景が描かれており、周辺は中山道を行き交う人々で賑わったであろうことが想像されます(図1・写真1)。
至徳(しとく)元年(1384)9月の奥付をもつ『奥石神社本紀』によると、この地一帯はもともと地面が裂けて水が湧き出ており人が住めない場所でしたが、孝霊(こうれい)天皇5年に石部大連(いしべのおおむらじ)という人物が松や杉の苗を植えたところ、たちまち森になりそれを喜んだ大連が神壇を築いたことが奥石神社の始まりであるとされます。

写真2 現在の奥石神社鳥居と中仙道
写真1 現在の奥石神社鳥居と中山道

また、大連は百歳を超えてもなお、壮年をしのぐほどであったことから「老蘇」と呼ばれ、この森林を「老蘇の森」と呼ぶようになったといういわれがあります。天児屋根命(あめのこやねのみこと)を祭神とし、境内摂社(本社の祭神と縁故の深い神を祀った神社)諏訪社に建御名方神(たけみなかたのかみ)を祀っています。

おすすめPoint
さて、今回注目する本殿(写真2)ですが、棟札(むなふだ)には
「江州佐々木郷御庄内老蘇村御社建、天正九年正月廿六日
願主者柴田新左衛門尉家久美州西方池尻住人也、天正九年辛巳書之畢」(表面)
「大工 西之庄左衛門三郎 筆者観音寺住僧圓王院定長
八日市藤左衛門内□七是也」(裏面)
とあり、天正9年(1581)に建てられたことがわかります。「柴田新左衛門尉家久」は織田信長の重臣・柴田勝家の一族とされる人物です。ちなみにこの近くの安土城は天正4年(1576)に築城が始まり、天正7年(1579)に完成しているため、安土城の築城と同じくらいの時期に造営工事がなされていたということができます。なお、奥石神社の本殿再建を安土城下町の形成に関連したものとする意見もあるようですが、安土城下町からは離れた地点にあるため、私は城下町形成と直接の関連はなく別の理由・狙いがあったのではないかと考えています。

写真3 奥石神社本殿
写真2 奥石神社本殿

建物の形式は滋賀県内に多く見られる檜皮葺(ひわだぶき)の三間社流造(さんげんしゃながれづくり)で、唐草文様が透かし彫りされた蟇股(かえるまた)など随所に華麗な装飾が施されています。本殿に向かって左側にある諏訪社についても建物細部の特徴から桃山時代に建立されたものと考えられています。こちらは一間社流造(いっけんしゃながれづくり)の形式を採用しています。
戦国時代や安土桃山時代といえば、まずはお城がイメージされますが、今回紹介したような同じ時代の神社建築(であったり寺院建築)をめぐってみるのもまた面白いと思います。みなさんも戦国時代や安土桃山時代を神社建築から感じてみてはいかがでしょうか。
(山口誠司)

≪参考文献≫
滋賀県教育委員会 1987『重要文化財 奥石神社本殿修理工事報告書』
柳原書店 1974『近江名所圖會』

周辺のおすすめ情報
奥石神社の名の由来、「奥の石」とは繖山(きぬがさやま)にある観音正寺の奥の院の磐座(いわくら)を指し、奥石神社はその里宮とされます。山上の磐座は巨岩の折り重なった洞穴で、仏教伝来以前の日本古来の自然物に対する信仰の姿を今も見ることができます。現地まではなかなかの山登りになるので、それなりの装備をおすすめします。(詳しくは「新近江名所圖会第312回」参照。)

アクセス
【公共交通機関】JR琵琶湖線安土駅下車、タクシーで約15分 または
市民バス(あかこんバス)⑬老蘇・金田コース「奥石神社」下車
(近江八幡駅北口から35分、安土駅北口から18分;区間均一運賃。ただし一日5便、平日のみ運行。詳しくは近江八幡市のHPをご確認ください。)
【自家用車】名神高速道路蒲生スマートIC下車、約25分

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