新近江名所図会
新近江名所圖会 第48回 2万5千年の歴史をもつ集落-関津-
琵琶湖から流れ出で、宇治川、淀川と名前を変えながら大阪湾に通じる瀬田川、関津はこの瀬田川の東岸に位置します。
関津の東には田上平野とも称される水田地帯がひろがっています。田上(たなかみ)平野は、その周囲を瀬田丘陵や田上山系が取り巻くように連なっており、盆地のように一つの完結したあたかも小宇宙的な空間となっています。
過去の発掘調査で、後期旧石器時代の角錐状石器、飛鳥時代の日本最古級の墨書土器、奈良時代の田原道や道路沿いに配置された官衙、鎌倉時代の非近江的な集落、室町時代の港湾施設、戦国時代から江戸時代初頭の区画溝を巡らした屋敷地などがみつかっています。
そのことからこの地では、2万5千年前から現在まで連綿と生活が営まれていることが明らかとなりました。
また、最近の調査では、河川に設置された鎌倉時代の簗、戦国時代の在地領主が築城した関津城の実態も明らかとなっています。
発掘調査からは、色々な歴史の断面が明らかとなっています。しかしながら、文献資料からはごく断片しか窺い知ることができません。
関津の地に悠久の歴史が織り成された要因は、その立地が大きく関係していると考えられます。そしてこのことはその地名が雄弁に物語ります。
関津の「関」は、交通の検察や遮断のため1857年(天安元年)に設置された大石関、「津」は意図的に設置された湊を意味し、瀬田川の渡船場があったことから関津浜と呼ばれたことから関津の地名がついたといわれています。
現在の関津には、「関」も「港」も残っていませんが、「関」が置かれた場所には関津峠、「港」が置かれた場所には常夜灯など往時の名残を見ることができます。
また、一見すると閉ざされた風景に見える田上平野ですが、信楽から流れ出て瀬田川に合流する大戸川が平野を貫き、田山山系沿いには奈良道、あるいは奈良街道と呼ばれる道が延びています。藤原仲麻呂に関係する「田原道」がこれにあたると考えられています。平野内に散在する集落は、関津のみならずそのほとんどがこの道沿いに立地します。川と道、この二つの回廊が交差する場所であり内と外を結ぶ場所、そこに関津があります。
おすすめPoint
◆笹間ヶ岳
関津の南には田上山系の支峰の一つである笹間ヶ岳(標高約433m)が聳えています。山頂からは、田上平野や琵琶湖だけでなく、近江の大部分を見渡すことができるなど思わず息をのむ絶景を堪能することができます。
関津の鎮守社である新茂智神社(天平宝字5年創建と伝えられる)の参道を進むと、そこから山頂へほぼ直線的に通じる林道が整備されており、90分程度で登ることができます。
周辺のおすすめ情報
瀬田川に大戸川が合流する地点のやや上流部の南郷洗堰の傍らに建つ国土交通省が運営するアクア琵琶では、瀬田川や田上地域の風土や特質を知ることができます。入館は無料です。また、隣接する大津市南郷水産センターでは、川魚と触れ合うことができます。
なお、関津では、隔週日曜日の午前中、地元でとれた農産物を中心とした物産を販売する朝市が関津郵便局の向かいで開かれています。
アクセス
【公共交通機関】JR琵琶湖線石山駅下車、帝産バス田上車庫行きまたはアルプス登山口行きで「上関」下車
【自家用車】名神高速道路瀬田東ICから車で20分、駐車場無し
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(藤崎 高志)
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