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新近江名所図会

新近江名所圖会 第85回 古代の滋賀県庁-近江国府跡

大津市
大津市大江・三大寺
近江国庁政庁跡
近江国庁政庁跡

瀬田唐橋の東1㎞の丘陵上、神領団地に隣接して近江国庁跡があります。
ここには、奈良時代の中ごろから平安時代の前半(8世紀中ごろ~10世紀後半)までの200年あまり、古代近江国を統治する役所である近江国庁が置かれていました。この遺跡は、50年ほど前の神領団地建設工事中に発見されました。国庁は国ごとに60か所ほど置かれていましたが、近江国庁は全国初の国庁遺跡の発見例となりました。
見つかった遺構は、築地塀で囲まれた中に、役所の長官である国守が座す正殿があって、正殿の後ろには控えの間である後殿が、正殿の前方左右には郡役所の長官らが着座する長大な脇殿が置かれ、これらの建物で囲まれた儀式空間としての朝庭が構成された堂々たるものです。近江国庁跡は古代律令国家の地方統治を知るうえで貴重な遺跡であることから、国の史跡に指定され、現在は簡単な整備も行われて地域の人たちの憩いの場となっています。

おすすめPoint

整備された近江国庁跡
整備された近江国庁跡

国庁は各国の最も栄えた場所、つまり政治・経済・文化の中心地域に置かれたのですが、少し視点を変えると、そこから見える風景にも大きな意味があったのではないかと思います。現在は建物が建てこんでしまってよく見えませんが、往時の近江国庁からは琵琶湖や瀬田川を見おろせたでしょう。当然、そこを通る船を監視するなど軍事的な意味合いもあったはずですが、加えて眺望の良さも求められたと思います。琵琶湖の対岸には、比良・比叡の山々が連なり、冬には冠雪した山並みが見事な景観を見せてくれます。
古代の滋賀県知事や役人たちが愛でた景色を、現地でご覧になってみてはいかがでしょうか。

近江国庁政庁復元模型
近江国庁政庁復元模型

周辺のおすすめ情報

瀬田廃寺塔跡
瀬田廃寺塔跡
古代瀬田橋推定地 (写真の桟橋あたり、奥に見えるのが現在の唐橋)
古代瀬田橋推定地 (写真の桟橋あたり、奥に見えるのが現在の唐橋)

国庁の周辺には、多岐にわたる行政事務を分担するためのいくつもの役所をはじめ、鎮護国家を願うための寺や神社も設置されていました。このような施設が集中する地域を国府と呼んでいます。近江国府には末端の下級役人や雑役に従事する者まで含めると700~800人ほどの人が働いていたと推定できます。
近江国庁跡の南には、堂ノ上遺跡・中路遺跡・青江遺跡・惣山遺跡などの役所の遺跡があって、これらの遺跡で多数の役人たちが勤務していたのです。野郷原1丁目の名神高速道路沿いにある公園では、国府に関連する寺院である瀬田廃寺の塔跡の礎石を見ることができます。現在も参詣する人たちで賑わう近江一ノ宮建部大社も、その創建は奈良時代に遡り、近江国全体の鎮守として置かれたのでしょう。
また、日本三古橋のひとつに挙げられる瀬田唐橋は、その位置が東日本と西日本の境界としての軍事的最要衝にあることから、幾度となくここで国家的大乱が繰り広げられ、古代においては壬申の乱や藤原仲麻呂の乱などの舞台となりました。現在の唐橋の下流約80mの地点から、壬申の乱の際に落とされた橋のものとみられる橋脚遺構が見つかっています。

アクセス

【公共交通機関】JR琵琶湖線石山駅下車 近江バス瀬田駅行きほか 神領団地下車 徒歩5分
【自家用車】名神高速道路瀬田東IC・瀬田西ICから5分、建部大社のみ駐車場あり


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(平井 美典)

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