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調査員オススメの逸品 第185回 土木工事に使われた杭 ―大中の湖南遺跡の矢板杭― 

近江八幡市
港湾施設
突堤状遺構
第2遺構中心部
第2遺構中心部
引き抜き状況
矢板杭を引き抜いている様子
引き抜かれた矢板杭
引き抜かた矢板杭

土木工事とは、山・森林・川・海などの自然環境を相手に、人間がそれらを使いやすく改造する作業です。明治になって、西洋から煉瓦造や鉄骨造などの技術が入ってくるまで、わが国では、橋をかけたり、道路を舗装したり、堤防を造ったりするために、豊富ににあった木材を大量に利用していました。

平成12~13年度に発掘調査を実施した、近江八幡市安土町の大中の湖南遺跡から、木材を大量に使用した土木工事の跡が見つかりました。この時の調査で見つかったのは、陸地側から内湖側に向かって突き出すように造られた、7世紀後半~8世紀前半頃の2基の突堤状遺構です。遺構の性格については、桟橋・消波堤(しょうはてい)などの諸説がありますが、いずれにしても古代の琵琶湖の水運に関係する港湾施設の一部であると考えられています。見つかった2基の突堤状遺構は、それぞれに構造が異なりますが、全長27.2m・幅3mのものを第1遺構とし、これよりも後の時代に造られた全長42m・幅2mのものを第2遺構と呼んでいます。今回は、このうち、第2遺構に使用された矢板杭についてご紹介したいと思います。

第2遺構は、長さ0.6~1.9m・幅10~15㎝の針葉樹の矢板杭を隙間なく打ち込んで側板とした内側に、安土山山麓から運ばれた30~50㎝の石材(湖東流紋岩)を詰め込んだ構造で造られていました。第2遺構の調査では、遺構が伸びる方向や範囲を調べるための部分的な発掘調査であったため、全長の半分の面積のみを検出しています。発掘調査では、157本の矢板杭を確認できましたので、掘り下げていない部分にも杭が打たれていると考えると、300本以上の矢板杭が使われていたと考えられます。

また、矢板杭の長さや、打ち込まれた深さを確認するため、サンプルとして遺構の中心部の矢板杭を1本引き抜いてみると(引き抜くのはかなり大変な作業でしたが)、引き抜いた杭は、長さ196.3㎝・幅9.4㎝・厚さ5㎝の大型の杭で、下から15㎝の部分を両側から削り込んで、先端を尖らせた、大型のものであることがわかりました。地盤が柔らかいため、長さの約半分の深さまで地中に打ち込こまれていました。

製材に鋸が使用されていなかった当時(鋸の使用は14世紀頃から)、木材から杭を制作する作業は、鑿や楔を使って板状に打割りし、横斧(チョウナ)で仕上げるたいへん手間のかかる作業だったようです。また、用意した300本の杭を軟弱な地盤に手作業で打ち込み、設計通りの港湾遺構を造るには、多くの人力が必要だったと思います。調査が終了し、ずいぶんたちますが、この杭を思いだすたび、古代の人たちの技術力と大規模な工事をやり遂げるチームワークに感動させられます。

田中咲子

詳しくはこの報告書で…
『芦刈遺跡・大中の湖南遺跡』ほ場整備関係遺跡発掘調査報告書32-2  滋賀県教育委員会・(財)滋賀県文化財保護協会 2005年
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