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新近江名所図会

新近江名所圖会 第334回 おうみの匠をたずねて-紺喜染織(湖南市下田)-

湖南市
写真1 糸染めの作業中の植西さん
写真1 糸染めの作業中の植西さん

先日、湖南市下田(旧甲西町)の紺喜染織さんに藍染の体験に寄せてもらいました。
今やほとんど見かけなくなった「紺屋さん」は、そめものを生業にする職人の中でも特に藍染めに特化した職人です。昔は農家が木綿や麻を栽培し、各家で糸をつくり、織って日常着などを仕立てるのは当たり前のことでした。染めは専業のところに頼むこともあり、特に藍染めは誰でもができる技ではないので、紺屋さんに染めに出していたものです。昭和20年代、30年代頃には甲賀郡内でも7軒ほど、栗東、瀬田などにも結構、紺屋があったそうです。紺喜さんは今も原材料の植物である藍の栽培から、染めまで、すべての工程を、自ら行う数少ない工房のひとつです。昔は綿花や麻がこの下田近隣でも栽培され、それで糸を作り、染めも織りもしていた時期もあったそうです。
明和年間、初代が京都で修業して創業した紺喜さん。その藍染の技を今に伝える植西恒夫氏(昭和9年生まれ)は今もこつこつと藍染めの仕事を続けておられます。各地から送られてくる糸などの染めと、一般の染め体験希望者も受け入れてくださります。
藍の天然灰汁建てのやり方は、一朝一夕にできるものではありません。紺喜さんでは、まず、藍の栽培から収穫、染料の元となるすくもを作ります。そして、それを甕で仕込み染液を作ります。そのうえそれらを管理していくのは、相当の技術・労力を要するもので、ちょっと習ったからといってすぐできるものではありません。ですので、染めを体験させてもらえるだけでも、かなり貴重でありがたい経験です。

写真2 染体験・まだ浅葱色
写真2 染体験・まだ浅葱色

◆おすすめPoint
あらかじめ用意した布、糸などを、植西さんの指示に従って、藍の染液が入った甕に浸けていきます。浸けては上げてしぼり、広げるという作業を繰り返し、好みの色になったら、外の井戸端でたらいの水を何度も何度も水を替えながらすすぎます。
井戸から直接水を汲めるので、一定の水温の水をふんだんに使えます。肌寒い時期でしたが、水は思いのほか暖かく、作業はそれほど冷たくありませんでした。染織には水が不可欠で、良い水が豊富に使えることは大事な条件です。また、水質によって、そこの染め、繊維の加工のやり方等が左右されるので、だからこそ、その土地その地域ならではのやり方があると思われます。
洗いが終わると、軒先に干してしばらく乾かします。その日はお天気も良くお昼頃にはほとんど乾いていました。持って帰ってから完全に乾かしたあと、もう一度水洗いをして乾かして完成です。
天然の植物を使った染め方は、植物によっていろいろなやり方がありますが、いずれにしても手間暇がかかり、またその仕上がりもそれぞれに異なります。また、素材によっては退色もはげしく染めた色が長持ちしないものです。
藍の建て染めは、ほかの草木染に比べ、木綿や麻素材でもよく染まり、抗菌効果も高いことから、普段使いの着るものなどに重宝する、とてもすぐれた技術です。しかし、近年では、採算が取れないものはなくなっていくばかりです。こうした人の手で培ってきた技は何らかの形で継承していくことができればよいのに、と思っています。

写真3 だんだん青くなってきました
写真3 だんだん青くなってきました

◆周辺のおすすめ情報
紺喜さんのすぐ近所に山上(ヤマジョウ)という漬物屋さんの本店があります。下田地区は近江の伝統野菜「下田なす」の原産地で周辺で多く栽培されています。「下田なす」は、下田地区で明治以前から栽培されている在来種のなすです。普通のナスに比べ、掌に収まるくらい小ぶりで卵形。色は紫色、ガクの下に白いラインがくっきり入り、皮は薄く実の部分はきめ細かく柔らか。水分を多く含み、生食でもアクが少なくほんのり甘みがあります。生食、加熱調理どちらにも向きますが、浅漬けなどの漬物にするとそのおいしさが際立ちます。収穫時期の7月~10月頃、地元農協など甲賀地域を中心に産地の近隣では生のものが販売されています。
山上さんの看板商品の一つは自社農園で栽培する下田なすを使った「下田なすの浅漬け」。あっさりした塩味で、みずみずしいなす本来の味わいがたのしめます。
また、下田では「弥平とうがらし」という伝統野菜もあり、最近ではこれを使った一味やチリソースなどの加工品も地元の道の駅や高速道路のPAなど特産品を扱うお店で販売されています。
またこの辺り近くには湖南三山の一つ善水寺があります。(新近江名所図会第199回) 桓武天皇の病気を平癒させたという霊験あらたかな水が湧き、国宝の本堂と重要文化財の仏像など数々の文化財に出会えます。
(小竹志織)

◆アクセス
【公共交通機関】JR草津線甲西駅からコミュニティバス「めぐるくん」で「下田」バス停下車すぐ。
【自家用車】甲西駅または三雲駅から約15分
※見学、体験する場合は要予約
滋賀県湖南市下田

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