新近江名所図会
新近江名所圖会 第338回 湖国の迎賓館と呼ばれた歴史あるホテルの建物-大津市「びわ湖大津館」
大津市域の琵琶湖西岸に位置する柳が崎は、かつては湖のレジャーを楽しむ水泳場などがあった場所として知られています。JR湖西線の大津京駅から北東側に1㎞ほどの距離にあたるこの場所には、平成10年(1998年)まで「琵琶湖ホテル」の本館として利用されていた建物が残されています。平成14年(2000年)に大津市指定有形文化財に登録され、平成19年(2007年)には経済産業省近代産業遺産群に認定された建物は、平成14年(2000年)から「びわ湖大津館」という新たな名称でレストランやショップ、貸しホールなどを備えた多目的文化施設として利用されています。
この建物は大津市が目指す「遊覧都市」にふさわしい近代的なホテルとして、滋賀県・大津市・民間の共同出資により昭和9年(1934年)に竣工されました。鉄筋コンクリートで造られた地上3階・地下1階の建物で、開業時には客室38室・スイート3室が用意されました。設計を行ったのは、岡田信一郎氏が創設した岡田設計事務所です。岡田氏は大正から昭和初期にかけて活躍した建築家で、東京にある歌舞伎座や明治生命館などを設計したことで知られています(写真1)。
◆おすすめPoint
建物の外観は、桃山様式と呼ばれる和風のデザインで社寺建築をモデルとしたものです。建物正面の玄関を覆う大きな屋根は緩やかに曲線を描く唐破風となっており、外観の中でも特に目を引きます。この屋根を含むすべての屋根は、緑青色をした銅板に覆われています。銅が酸化し錆びることで現れるこの色は、新しく葺きなおされるときにあえて慣れ親しまれた雰囲気を失わないように科学処理をして再現されたものです(写真2)。
大きな玄関の扉を通り抜けると、洋風のデザインで造られた建物の内部を見学することができます。床に敷かれた真っ赤なカーペットや当時のフロントに置かれた木製のキーボックスなどからは、ホテルとして使われていたころの雰囲気がうかがわれます。2階には琵琶湖を望む展望テラスがあり、3階には旧琵琶湖ホテルに関する展示室が設けられています。展示室では、宿泊された皇族の方々やヘレン・ケラーなどの著名人を紹介するパネルなどを見ることができます。
国が国際観光の振興を進めるなか、外国人観光客のための迎賓館的ホテルでもありました。現在、新型コロナウイルスの流行によって、国内外を問わず観光は大きく制限をされています。本来であれば昨年は東京オリンピックが開催され、外国からの観光客が多く訪れていたはずでした。一日も早い流行の終息によって観光が楽しめる世の中になってほしいものです。
◆周辺のおすすめ情報
びわ湖大津館の周辺は、「柳が崎湖畔公園」として整備され、色とりどりの花が咲く「イングリッシュガーデン」も設けられています。また、「びわ湖大津館」を利用する際に使用する駐車場には、「明智左馬助駒止の松」と伝えられる一本の松が生えています(写真3)。天正10年(1582)年、明智光秀の娘婿明智秀満(左馬助)は、「本能寺の変」ののちに光秀が亡くなったことを安土城で聞き、坂本城へと向います。その途中、打出浜から馬に乗ったまま琵琶湖を渡り、坂本へとたどり着いたと伝えられています。この松は、琵琶湖から上陸した左馬助が馬をつないだ松として伝えられているものです。木の傍らには、昭和8年(1933年)に地元の青年会によって建立された石碑が残されています。
◆アクセス
【公共交通機関】JR東海道線「大津」駅、京阪電車「浜大津」駅から江若バス「柳ヶ崎」下車 徒歩約3分もしくはJR湖西線「大津京」駅から徒歩約15分
京阪電車「近江神宮前」駅から徒歩約15分
【自家用車】161号バイパス皇子山ランプ下車、15分
(中村 智孝)
所在地:大津市柳が崎5番35号
≪参考資料≫
・びわ湖大津館「びわ湖大津館 建物のご案内」
・大津市(1999)『図説 大津の歴史』下巻
・大津市(1985)『新修 大津市史 8 中部地域』