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新近江名所図会

新近江名所圖會 第275回 パーソナルシリーズ 宿る処 参の出会い 木花開耶姫の桜 高島市今津町阿志都弥神社境内

高島市

JR今津駅の北東、自衛隊の施設が建ち並ぶ側に、見事な森が広がり、その一部は「宮の森公園」として整備され、地元の人達の恰好の散策場所になっています。何故宮の森?それは、阿志都弥神社・行過天満宮の鎮守林を取り込んでいるからです。阿志都弥神社とは何とも変わった名前ですが、昔、葦津姫を、ここに生えていた桜の木に勧請した事から、この名前が付いたと言われています。実は、葦津姫とは木花開耶姫の別名です。木花開耶姫と言えば、天降った邇々杵命を一目惚れさせたほどの絶世の美女神として知られています。

神話では、木花開耶姫にぞっこんの邇々杵命が、是非嫁さんにしたいと父神にお願いしたところ、父神はいたく喜び、姉の磐長姫とセットで送り届けた。しかし、この磐長姫が非常に醜かったので、邇々杵命は、木花開耶姫だけ手元に置き、姉を帰してしまった。この事を父神は非常に怒り、邇々杵命に呪いをかける。「姉妹二人を嫁にしたら木花開耶姫のように咲く花の如く栄え、磐長姫のように、その栄えが磐のように永遠に続くことを保証するため、二人を使わしたのに、見てくれを選んだお前は、花が萎むように必ず死ぬ事になる。」だから、人間は必ず死ぬのだ。

この地の山桜に降臨した木花開耶姫を祀ったのが、阿志都弥神社の始まりとされます。このため、古くは「桜花大明神」と呼ばれ、古代善積郷の郷社として崇敬されてきました。現在、境内には二本の山桜の巨木が立ち、木花開耶姫の御神木として崇められています。

1. 雪衣の山桜
1. 雪衣の山桜
2. 雪帽子
2. 雪帽子

日本神話上最大級の美人神、クレオパトラか楊貴妃か。是非お目にかかりたいと思い出かけました。が、境内は雪。その中に確かに山桜の巨木は立っていましたが、姫は冬眠中なのか、余り気配が感じられません。雪帽子を被った紅梅が、「あほ、冬に桜が咲くか!」と私を軽蔑したように見つめていました。当たり前です。春を待って再び参拝しました。桜花爛漫。染井吉野とは違う、清楚な花が頭上に躍っています。

3. 阿志都弥神社と山桜
3. 阿志都弥神社と山桜
4. 木花開耶姫1
4. 木花開耶姫1

私は、木の中にいる姫神に話しかけます。

「始めまして、この前来た時は雪の綿帽子を被ってたけんど、今日はピンクの花衣やね。イヤー綺麗なもんや。」

「それにしても、立派な幹やね。大昔から咲いてるちゅうことやから、是がほんまの姥桜。」「なんやて、もう一回ゆうてみい。誰が姥桜や!」

「いや、すんまへん。口が滑りました。あんまり立派なお姿だったもんで。」

「神様ちゅうもんは、基本的には老けへん事になってるんや。けど、寄りつく樹には寿命があるさかい、老けて見えるのは仕方ないけんど、本体は邇々杵をたぶらかした時のまんま、いや、星霜に磨かれ、美しさに深みが増したはずや。そうやろ。」

「ははー。確かにその通りでございます。年増の風格と美しさが滲み出ております。」

「一々かんに障る奴やな。ばちあてたろか!」

「すんません。すんません。ついつい花に浮かれて失言しました。」

「ところで、なんで姫神様は桜に寄りついたんですか?」

「何でって、さくらは〈サ〉の〈クラ〉やから。」

「???、あほにも解るように言ってください。」

「〈サ〉ちゅうのは稲魂のことや五月、早乙女、さなぶり・・・、米作りに関係する言葉に〈サ〉が付くやろ。ほいで、〈クラ〉は鞍、座や。神様が寄りつく磐を磐座とゆうやろ。要するに、桜は稲魂が寄りつく花。」

「私は神様やさかい、お前らの祈りを受けて何かええもんをやろと思った時、一番の贈り物はお米やと思い、稲魂の宿る桜に依り付いたわけや。お前らはそれを感じ取って、私を大切にし、今まで来たわけや。」

「よう解りました。でも姫様、僭越ながら申し上げますが、時代は変わってきましたから、もっと御利益のバリエーションを増やしたらどないですか?」

「そうやな、神様も多角経営の時代に入ったかもしれんな。ま、祈られたら悪い気もしないし、何せ神様やからその気になったら何でも叶えられるで。」

「ポイントを絞ったほうが、美人・美貌・美術・美食・・・〈美〉の付く願いを叶える神様になったらどないです。」

「それ、ええな。そうしよ。で、お前、何が欲しい?」

「勿論〈美酒〉を。さけですから〈サ〉の〈ケ=気配〉で、姫様の得意にするところとちゃいますか。」

「そのとおり、得意やし、大好きや。願いは簡単に叶う。そこの池本酒造で〈琵琶の長寿〉を買って帰れ。今日は久しぶりに面白かった。来年の春もまたおいで。」

「おおきに、二人で琵琶の長寿を酌み交わしましょ。」

5. 木花開耶姫2
5. 木花開耶姫2
6. 近江の銘酒の1つ〈琵琶の長寿〉
6. 近江の銘酒の1つ〈琵琶の長寿〉

★今回の神様ポイント。怒らせたので-10ポイント。後で喜ばせたので+15ポイント。差し引き5ポイント。これまでの合計25ポイント獲得。

 

まだまだ神様への道は遠い。

大沼芳幸

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