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新近江名所図会

新近江名所圖会 第84回 内湖の干拓の置き土産-琵琶湖干拓資料館

米原市
米原市入江
琵琶湖干拓資料館
琵琶湖干拓資料館

琵琶湖の周りには、かつて多くの内湖がありました。内湖とは、砂堆などで琵琶湖本湖と切り離されているものの、狭い水路で本湖とつながっている水域を指します。葦原が茂り、それらのおかげで水の浄化が行われ、魚の産卵場所となるなど、自然環境が豊かな場所です。
内湖のほとんどは水深が1~2mと浅かったことから、昭和期に入ってからの干拓により陸地化されました。これは、食糧難に起因する農地造成を目的としたものですが、現在では農地以外に宅地としての利用も進んでいます。こういった干拓工事の際に見つかった遺物を展示しているのが、琵琶湖干拓資料館です。
琵琶湖内湖の干拓工事は、海岸部で行われるような山を削ってできた土砂を埋め立てる工事ではなく、琵琶湖本湖との間を堤防で仕切り、中の水をポンプにより汲み上げて行われました。ですから、旧内湖にできた農地は、現在でも琵琶湖の平均水位(標高84.371m)よりも低くなっています。
干上がった内湖の湖底では、土器や石器をはじめとする考古遺物が見つかり、それが遺跡の発見につながることがよくありました。これは、内湖岸が昔から人々によく利用されていたり、内湖に流れ込む河川が上流から多くの遺物を運んできたりしたことと同時に、水中にあったために遺跡が後世の破壊を免れていたことも、大きな要因となっています。
こういった内湖の遺跡で発掘調査を行いますと、水中に長期間あったことから、普通の陸地の遺跡では腐って無くなってしまう木製品などの有機質遺物も、良好な保存状態で見つかります。
琵琶湖干拓資料館は、その位置する場所からもわかるように、米原市入江内湖遺跡で見つかった遺物をおもに展示しています。しかし、そのほかに大中の湖で見つかった遺物も多数あります。私がここで紹介しますのは、近江八幡市白王遺跡で見つかった縄文土器です。

おすすめPoint

今の白王遺跡
今の白王遺跡

白王遺跡は、以前は大中の湖西遺跡と呼ばれていましたが、現在は所在する町名から白王遺跡と呼ばれています。旧称の通り、近江八幡市と東近江市の間に広がっていた琵琶湖最大の内湖・旧大中の湖の西岸にあり、長命寺山を最高峰とする独立山塊が大中の湖に接する場所に立地しています。このような山と湖が接する場所では縄文時代の遺跡が見つかることが多く、当時の人々が食料を得やすいために居住地としてよく利用していたことがわかります。
白王遺跡の発見は、大中の湖が干拓されたことによります。昭和32年(1957年)に開始された大中の湖の干拓工事は昭和39年に完了し、広大な農地が誕生しました。白王遺跡は、この農地造成のさなか、昭和42年に発見されました。佐藤宗雄さんらの努力により多くの遺物が回収されましたが、発掘調査が行われることはありませんでした。現在では、遺跡はほとんど破壊されたと思われ、わずかに土器片が採集されるにすぎません。

展示されている白王遺跡出土土器
展示されている白王遺跡出土土器

回収された遺物の多くは縄文土器で、縄文時代早期末~前期初頭のものと、同中期末~後期初頭のものがあります。遺物の多くは、現在は滋賀県教育委員会の所蔵となっていて、それらについては整理報告を行っています。後期初頭の縄文土器は、その内容の基準となった資料が出土した遺跡である岡山県中津貝塚の名前から、中津式土器と呼ばれています。滋賀県では、中津式土器の出土数が近畿各府県と比べると少ないのですが、この白王遺跡から出土した資料が最も量が多く、まとまっています。
琵琶湖干拓資料館では、滋賀県教育委員会で所蔵しているもの以外の、白王遺跡から見つかった遺物が展示されており、その中にはこの中津式土器が含まれています。これらの中津式土器は、比較的残りの良いものを中心に10数点があります。ほぼ完全な形に復元されている個体も数点あり、器形や文様構成などが判明するため、縄文土器研究の上では欠かすことのできない資料として扱われています。
ここで紹介した白王遺跡の中津式土器以外にも、琵琶湖干拓資料館では、入江内湖遺跡から出土した、縄文時代~中世の遺物も多数展示されています。展示についての大々的な広報をしているわけでもなく、知る人ぞ知る資料館ではありますが、その内容は多岐にわたり、充実しています。

周辺のおすすめ情報

干拓資料館から通称湖岸道路を長浜方面に進むと、道の駅「近江母の郷」があります。近江母の郷は宿泊施設を備えたくらしの工芸館、食事処母の郷、地元でとれた野菜などを取り扱っている物産交流館さざなみ、それ以外にテニスコートや散策を楽しむことができる公園等が併設されています。立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
また、彦根方面に進めば、5月3日に日本三大奇祭の一つといわれる「鍋冠祭」がおこなわれる米原市筑摩神社があります。

アクセス

【公共交通機関】JR米原駅から徒歩25分
【自家用車】名神高速道路米原IC下車、15分、駐車場あり
◇開館時間 : 平日8:30~17:00
◇入館料 : 無料


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(小島孝修)

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