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新近江名所図会

新近江名所圖会 第307回 民俗学者宮本常一の足跡とともにー長浜市茶わん祭の館-

余呉町
写真1 中之郷駅跡
写真1 中之郷駅跡

第220回で少しだけご紹介した、昭和39(1964)年に廃線となった旧北陸線(柳ヶ瀬線)の中之郷駅跡(写真1)ですが、この中之郷駅がまだ現役で活躍していた昭和13(1938)年3月、この駅から東に峠を越え、谷あいの村へと延びる道を、ひとり歩き訪ねた民俗学者がいました。日本を代表する民俗学者宮本常一先生です。その著作「子に生きる」(宮本常一著作集25『村里を行く』1977刊、収載)には、中之郷駅で汽車を降り、丹生村から菅並を経て、小原村、田戸村、奧川並の村落に至る道を歩き村々を訪ね、そこで見聞きした様子が詳細に記されています。
例えば、雪崩で寸断された道を歩きやっと辿り着いた村で、その村に住む苦労話を聞かされたこと。村の子どもたちと遊びつつ周辺を散策し隣村まで歩いたこと。村の神社をお参りしたことがきっかけで、村人の態度が一変、厚いもてなしを受けながら、山村に暮らす子育てにまつわる様々な話を聞いたこと。これらの話が、とても細やかな描写で丁寧に綴られています。

写真2 茶わん祭の館
写真2 茶わん祭の館

さて、残念ながら、菅並からその先の道(小原・田戸・奧川並への道)については、現在は封鎖されていて訪ねることは叶いません。しかしながら、丹生村から菅並の集落までは、現在も行くことができます。今回は、ほんの少しですが、その宮本先生が歩いた道を辿りながら、その道中にある施設をご紹介しましょう。
中之郷駅跡から南へ少し、国道365号線の「余呉支所前」の交差点から、東に続く道が県道283・284号線(杉本余呉線)です。現在は片側1車線の対面通行可能な舗装された道路になっていますが、宮本先生が歩かれた当時は、鬱蒼と茂る森を抜ける小道だったと思います。
アップダウンのある峠道を越え、東へ進むと、やがて道は、高時川のほとりに出ます。高時川沿いに北へ進むと、やがて視界が広がり丹生村に至ります。下丹生を抜けて道沿いに山間の風景を眺めながら上丹生に入ると、やがて左手に大きな建物が見えてきます。「茶わん祭の館」(写真2)です。

写真3 茶わん祭曳山
写真3 茶わん祭曳山

◆おすすめPoint
 正式には「長浜市立余呉茶わん祭の館」といい、地元丹生神社に伝わる「丹生茶わん祭」(滋賀県指定無形民俗文化財)を顕彰する施設(資料館)です。この茶わん祭、おおよそ5年に一度開催されるお祭りで、囃子方が乗り「しゃぎり」が演奏される3基の曳山(写真3)が巡行する道中で、稚児や花奴と呼ばれる花傘を持つ踊り手によって練り込みが行われる、大変華やかなお祭りだそうです。館の方のお話では、最近では平成26(2014)年に開催されたそうですが、過疎化・高齢化によって、稚児のなり手である子どもたちが集落にほとんどおらず、近隣の村や、親戚、あるいは嫁いで行った娘の子供にも帰参・増援してもらいなんとか開催にこぎつけたそうです。2019・2020年の大祭は今のところ見送られるそうで、大祭においてのみ継承される曳山の建て方や、稚児のなり手不足など、次回の実現のための課題は山積みなのだそうです。

宮本常一先生が歩かれた昭和13(1938)年当時、田戸村の住人の方が、「ここに住むのは大変だ」と話しながらも、しかし丹生や菅並、小原、田戸、奧川並の集落に暮らし続けた人々が、子ども達が、確かにそこには居ました。茶わん祭の館の職員の方は、「過疎化、高齢化はどうしようもない現実です。でも、この祭は後世にも伝え遺すべきだと思います。次回はいつ大祭が出来るのかは分かりませんが、ぜひ皆さんにこの状況を知って頂き、お時間が許すようであれば、ぜひ足をお運びください!」と仰っておられました。みなさんも、ぜひ一度足を運ばれてみては如何でしょうか。

写真4 六所神社
写真4 六所神社

※その他の見どころ
さて、茶わん祭の館をあとにして、菅並方面へもう少し足を向けましょう。県道285号線(中河内木之本線)を高時川沿いに北上すると、やがて菅並の集落に至ります。この集落の北東端、高時川とともに小原村方面へ向かう道のたもとに、六所神社(写真4)と、東林寺(写真5)があります。東林寺のご本尊は、建保4(1216)年造立と伝えられる聖観音菩薩立像で、昭和34年に国の重要文化財に指定されています。33年に一度本開帳される秘仏として今に伝えられていますが、近年では33年毎の中間年にも公開されることがあるそうで、前回の公開は、3年前、平成28(2016)年だったそうです。次の公開は、まだまだ当分先のことかも知れませんが、機会があれば、ぜひご尊顔を拝したいところです。

◆アクセス

写真5 東林寺
写真5 東林寺

【公共交通機関】北陸線・木之本駅より余呉バス、菅並・洞寿院行、茶わん祭りの館前まで約20分
【自家用車】中之郷駅跡あるいは長浜市余呉支所から県道284・285号経由で、「茶わん祭の館」まで約5〜10分、六所神社・東林寺までは約15〜20分程度。

丹生茶わん祭Facebookページ https://www.facebook.com/tyawanmaturi
茶わん祭の館ホームページ http://www.biwa.ne.jp/~azai/yakata.htm

(鈴木康二)

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