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新近江名所図会

新近江名所圖會 第413回 古代から様々な顔を持つ神社―一夜伏塚と印岐志呂神社―

草津市
写真1 一夜伏塚

 草津市ののどかな田んぼ道を歩いていると、ふいに石造りの柵が現れます。これは一夜伏塚(いちやふしつか)遺跡の鎮魂塚です(写真1)。このあたりでは、南北朝時代に足利軍と僧兵との間で戦が起こりました。一説によると、この際に比叡山延暦寺の僧である宥覚(ゆうかく)が約1000人の僧兵を引き連れ、足利軍の高師直(こうのもろなお)と戦った結果、戦が一夜で終わってしまったことからこの名前がついたそうです。この塚は鎌倉時代中期ごろに戦で亡くなった兵を弔うために造られたと推測されており、塚の土は近くの印岐志呂神社の位置する森から持ってこられたと考えられています。神社は元々古墳であることから、その土には古墳時代の遺物が混ざっており、それを御霊代(位牌)として埋めたそうです。一夜伏塚遺跡は2001年に発掘調査が行われており、鎌倉時代の土器が出土しています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

写真2 印岐志呂神社の大鳥居 

 一夜伏塚から北に目を向けると、真っ赤な大鳥居があります(写真2)。この大鳥居の西側が印岐志呂神社です。印岐志呂神社は天智天皇の勅命により、奈良県の三輪神社から分祀されました。「印岐志呂」の由来は、用明天皇即位二年(587年)にこの地域が悠紀地方に定められたことから、「ゆきしろ」→「印岐志呂」になったと伝えられています。悠紀地方とは、大嘗祭のときに新穀や酒料を献上される国郡のことです。また、源頼朝が尾張国を攻略する際にその武運を祈り神殿を寄進した、という言い伝えがあったり、徳川家康が大坂に出陣するとき、志那街道を通った際に印岐志呂神社に立ち寄り、武運の祈願をしたといわれていたりと、戦との関係性も深い神社だったことがうかがえます。現在の社殿は1792年に再建されたものです。これらのことから印岐志呂神社境内は古墳や城など、古代から様々な形で利用されていた歴史のある場所だということがわかります。

写真3 印岐志呂神社 舞台

 印岐志呂神社は毎年5月3日に開催される、草津のサンヤレ踊りの「片岡のサンヤレ踊り」と「長束のサンヤレ踊り(※3年に一度)」が行われる場所です。草津のサンヤレ踊りは草津市内の7つの地域(矢倉(やぐら)・下笠(しもがさ)・片岡・長束(なつか)・志那(しな)・吉田・志那中(しななか))で五穀豊穣や疫病退散を願って行われる民俗芸能で、5月3日に市内各地で行われています。2022年には全国41の「風流踊」のひとつとしてユネスコ無形文化遺産に登録されました。お近くを訪れた際には、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

写真4 狛犬の前の鶏の像

おすすめポイント

 印岐志呂神社の神使は鶏ということで、門両脇の狛犬のそばには鶏が鎮座しています(写真4)。境内にも鶏がいるので、訪れた際はぜひ探してみてください。

周辺のおすすめ情報

 印岐志呂神社から徒歩10分ほどのところに芦浦観音寺があります。聖徳太子開基、秦河勝(はたのかわかつ)創建伝承を持つ古刹で数多くの国指定、県指定文化財を有し、寺域は「芦浦観音寺跡」として国の史跡に指定されています。(拝観は春と秋の一般公開日以外は事前予約制)

くわしくは[『びわこの考湖学』第1部 第52回 芦浦観音寺]を参照ください。

アクセス

【公共交通機関】

・JR栗東駅より北西へ徒歩約45分

・JR草津駅から近江バス烏丸半島ゆき片岡町バス停下車(乗車時間10分)徒歩約10分

【車】名神高速道路 栗東ICから北西へ約20分

(三好佑佳)

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