記事を探す

オススメの逸品

調査員オススメの逸品 第190回 発掘調査の切込み隊長!―バックホウとオペレーターさんの神業―

その他
発掘調査で一般に使用するバックホウ

これまでの逸品では、発掘調査を進めていく上では、作業員さんや補助員さんなど多くの人たちの助力や、創意工夫を凝らした様々なアイテムがあってのものだということを紹介してきました。今回は、発掘調査現場で作業の先陣を切ることになる「バックホウ」を紹介したいと思います。バックホウは、一般的には「ショベルカー」や「ユンボ」などと呼ばれることが多いですが、正式な建設機械名としては「油圧ショベル」と言い、その中でもアームの先端に、土砂などを容れるバケット(土を入れる部分)を取り付けたものを「バックホウ」と呼んでいます。バック(back)ホウ(hoe)という言葉の通り、バケットの先端に付いた爪で鍬(hoe)のように掘り上げ、土を運搬する巨大な機械です。ちなみに発掘調査で使うバックホウは水平に削る必要があるため、爪の部分に鉄板を取り付けています。
わたしたちが発掘調査で探し求める遺構や遺物は、「埋蔵文化財」という名のとおり、地下に埋蔵されているものです。かつての集落などの生活の痕跡は、ときには河川の洪水などで運ばれた土砂によって、ときには火山の噴火による火山灰などによって、ときには後世の開発などの過程の中で、地下深くに埋もれてしまっているのです。そして、かつての人々が生活していた地面に至るまでには、現在の地面から数十センチメートルでたどり着ける場合もあれば、ときには数メートルに及ぶ場合もあるのです。その数メートルに及ぶ土の堆積を人力で掘削していたのでは時間がいくらあっても足りません(かつての発掘調査では人力で掘削していたそうですが…。)。そこで、発掘調査における先駆けとしてバックホウが登場するのです。

巨大なバケットで、わずか数センチで掘削する神業!
巨大なバケットの先端に鉄板を取り付け、わずか数センチ単位で掘削する神業!

発掘調査におけるバックホウの主な仕事は、昔の生活面に至るまでの表土を掘削し、その痕跡を探し当てることにあります。その過程の中で、誤って生活面を掘りすぎてしまうと、建物などの生活の痕跡も消え去ってしまいます。それは、発掘調査によって新たに判明するはずだった地域の歴史そのものが消えてしまうことと同義なのです。つまり、バックホウを操るオペレーターさんには、厚く堆積する表土を迅速に掘り上げつつ、わずか数センチメートルという薄さで土層を削りながら生活面を探り出し、また、土器や石類などに触れると止めるという、とてつもなく高度なテクニックが要求されるのです。わたし自身、バックホウでの掘削作業を監督する際には、「ここは平らに仕上げてください!」「ここはもう少し薄く削ってください!!」と、自分の思うままに指示を出してはいるものの、あの巨大な機械でわれわれが指示する細かい要求を満たす作業を行うには、まさにオペレーターさんの神業の如き精緻なテクニックがあってこそのものなのだと、改めて思い知らされます。
では、実際に発掘調査に参加してくださっている、とあるオペレーターさんに掘削作業についてのお話をうかがってみました。

Q:バックホウを操縦するとき、特に意識していることは何ですか?
A:「自分の癖を見極め、自分を抑えること。自分の癖がわかっていないと、自分の思うような掘削はできません。それに加えて、はやる自分の心をしっかり抑えていないと、誤って掘りすぎでしまうことになりかねない、なので、この2点はいつも心がけているよ。」

Q:あの巨大な機械を操縦して、どれぐらいの薄さで土層を削ることが出来るのですか?
A:「1センチの程度の薄さで削ることは可能だよ。それ以上厚く削ってしまうと、偶然出土した土器まで削ってしまう場合もある。なので、しっかりと目を凝らしながら、出来うる限り薄く削るようにしているよ。」

Q:バックホウのオペレーターさんとして、発掘調査でのやりがいはなんでしょう?
A:「やっぱりいろんな人が喜んでくれることかな!きれいに掘削を終えることができれば、技師さんが喜んでくれる。また、補助員さんや作業員さんも、次の仕事がしやすいと喜んでくれる。その結果、貴重な遺構や遺物が見つかったら、地元の人も喜んでくれるしね!」

私の無理難題にも応えてくれるオペさんです。
私の無理難題にも応えてくれるオペさんです。

最後に、私のバックホウへの指示の出し方についても感想をうかがってみました。
「まだ甘いね!もっともっと細かい無茶な要求をして、こっちを困らせて追い込んでやろうという気持ちで指示を出してもらってもいい!そういう無理難題に立ち向かって、何とかしてやろうという気持ちがわたしにとっても大事なんだ!!」
バックホウの掘り上げ名人は、自分のモチベーションをも掘り起こす心の熱い人でした。地域にとって、新たな歴史の1ページを掘り起こす発掘調査は、巨大な機械と精緻な技術、そして熱い心によって幕が開くのです。(木下義信)

Page Top