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新近江名所図会

新近江名所圖會 第276回 国宝と重要文化財の神社本殿-苗村神社(なむらじんじゃ)-蒲生郡竜王町綾戸

竜王町

あまり知られていませんが、国宝・重要文化財が日本一多いのは東京都で、その数は2729件になります。続いて京都府の2144件、奈良県の1311件、そして滋賀県の813件となります。そうなのです。滋賀県の国宝・重要文化財の件数は堂々の全国4位となっています。

この813件のうち、神社の本殿に限ってみてみると53件を有しています。この件数を都道府県別件数にあてはめると、50件の国宝・重要文化財を有する40位の富山県を上回ります。今回は、国宝・重要文化財の神社本殿のなかでも竜王町の苗村神社にスポットをあてて紹介したいと思います。

多くの神社がそうであるように苗村神社の創建についてもよくわかりません。式内社の「長寸神社」に比定されたりもしています。式内社とは、10世紀前葉に編纂された法令の細則集である『延喜式』に登載された神社のことです。ここに載せられている神社は全国で3132座(1社に複数の祭神を祀ることもあるため、実際の神社数はこれより少ない)あり、中央官庁である神祇官より官幣が奉られる官弊社と、各地の国司より国弊が奉られる国弊社に分かれます。近江国には、142社、155座あったことが知られます。

「長寸神社」は蒲生郡11座のうちの1座です。ここで疑問に思う方もいるでしょう。なぜ長寸神社が苗村神社なのかと。実は日野町内に長寸神社という名の神社が鎮座しており、こちらを式内社「長寸神社」にあてる説もあります。社名も合致しているので、このように考えるのは順当でしょう。長寸はどのようにみても「なむら」にはならないと思います。ところがこの「寸」という漢字は「村」という字の木偏を省略したものととらえ、「長寸」は「長村」であり、「ながむら」→「なむら」となることから、苗村神社が式内社「長寸神社」であるとする説があります。傍から見たらほとんどこじつけとしか思えないような説です。苗村神社には国宝・重要文化財にも指定されるような建築物が6件もあり、その風格から式内社にふさわしいということでしょうか。どちらが式内社である「長寸神社」なのかは私には判断できません。苗村神社が式内社の候補であるということを知っていただければ十分です。

苗村神社を訪れてまず目にはいるのが楼門です。室町時代に建立されたもので、堂々たる容姿は重要文化財に指定されています。この楼門をくぐり、右手を見るとこれまた重要文化財の神輿庫、正面に拝殿があります。この拝殿の右手奥、瑞垣に囲まれた内には三間社流造という建築様式の西本殿があります。正面からみて間口が三間、側面からみた屋根の形状が前方へ流れるように出ていることから流造の名称があります。この瑞垣内には西本殿を中心に左手に八幡社本殿、右手に十禅師社本殿が並置されています。いずれの社殿も室町時代の建立とされ、なかでも西本殿には棟札が残っており、それによると德治3年(1308)に造営が開始されたことがわかっています。西本殿は国宝、八幡社本殿と十禅師社本殿は重要文化財です。

1 西本殿
1 西本殿

これらの西本殿に係わる建築群と様相を異にしているのが東本殿です。この社殿は西本殿とは県道を挟んだ東側にあります。門などの施設はなく、木々の合間を縫う参道を歩いていくとぽつんと建っています。朱塗りの一間社流造の本殿は室町時代のもので、これまた重要文化財になっています。また本殿を囲う瑞垣も無いため、西本殿とは違い結構近くまで寄ることができるので、隅々の細かいところまでみることができます。意外とおすすめな神社本殿です。ちなみに、式内社について前述しましたが、東西本殿のうち、この東本殿のほうが式内社の「長寸神社」の候補だそうです。西本殿に比べてやや見劣りする感は否めませんが、もしそうだとしたら、実は東本殿のほうが神社の本来の中心であったのかもしれません。そのように考えるとなんだか杜の中にたたずむように建つ東本殿が、より古色を残しているような気になってきます。

3 東苗村古墳群   奥に見えるのは東本殿
3 東苗村古墳群
  奥に見えるのは東本殿
2 東本殿
2 東本殿

◆周辺のおすすめ情報
東本殿の周囲の地面をみるとなんだか起伏がある地形となっています。実はこれ古墳なんです。東苗村古墳群と言い、『滋賀県遺跡地図』には8基と記されています。いずれも円墳で、発掘調査は行われていませんが、古墳時代後期のものと推定されています。この古墳群の存在も、東本殿がより古くから祀られていた地であったことを窺わせる一つの要因となっています。

◆アクセス
近江八幡駅北口より近江鉄道バス「アウトレットパーク」行き「綾戸北」下車徒歩2分

◆参考資料
『式内社調査報告 第十二巻 東山道1』皇學館大学出版部 1981年
『竜王町史』上巻 竜王町 1987年
内田保之

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