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新近江名所図会

新近江名所圖會 第409回 日向山と新たに見つかった古墳群―栗東市六地蔵遺跡―

栗東市

 栗東市の北東部に所在する日向山(にっこうやま)は標高222.9mの小高い山です。それほど高さはないものの、平野に面して立地することから遠くからでもその姿を眺めることができます(写真1)。

写真1 東海道から日向山を望む

 この山の山頂には、水の神をまつる竜王神の祠が建てられています。この場所には神をまねく岩である「磐座(いわくら)」があり、現在は北側の麓にある岩上神社が本来所在していた場所であったとされています。また、奈良時代にはこの地域に所在した四箇寺のひとつが造営されていたとも伝えられています。「日向」という名称から日の神の信仰との関わりもうかがわれるとされ、古くからこの地域の信仰に深くかかわっていた山であったとされています(写真2)。

写真2 日向山山頂の「磐座」と祠

 この山には、古墳群や山城が分布しています。古墳群は古墳時代後期にあたる日向山古墳群と金山古墳群があります。このうち、西麓に分布する日向山古墳群には市内でも最大規模の横穴式石室を持つ古墳が見つかっています。墓地のなかにある古墳は石室を覆う墳丘(直径18m、高さ4.3m)がきれいに残っており、側面には石室の入り口が開いています。柵が設けられているため中に入ることはできませんが、入り口からは石室内を覗くことができます(写真3)。

 山頂の山城は「多喜山城(たきやまじょう)」(別名「日向山城」)と呼ばれています。湖南平野を一望することができ、すぐ北側をとおる東海道をおさえる場所に立地しています。眺望が利く山頂には土塁と石垣が残されており、土塁に囲まれた平坦地には2か所の虎口(入口)が確認されています。これらの特徴から、この城は戦国時代末ごろに地元を支配していた人々によって築かれたと考えられています。

写真3 日向山古墳

おすすめポイント

 この山の西側から北側にかけて広がる六地蔵遺跡では、令和4年度からほ場整備にともなって発掘調査を実施しています。令和5年度の調査では、これまで知られていなかった古墳時代前期末から後期初頭(約1,500年前から約1,600年前)にかけての古墳群が確認され、これまで見つかっていた古墳群よりも前から日向山の周辺がお墓を造る場所として利用されていたことがわかりました。(詳しくは、「六地蔵遺跡現地説明会資料」をご覧ください。)現地を訪れた際には、日向山の麓にポコポコと古墳が並んだかつての風景を想像してみてください。

周辺のおすすめ情報

 日向山の北側を通過している東海道沿いには、今でも古い町並みが残っています。その中に建つ「旧和中散本舗」は大角弥右衛門家の邸宅で、江戸時代には旅人のために「和中散」という薬を販売する建物であったほか、街道を旅する公家や大名などの休憩所としても利用されていた建物です。重厚な造りの立派な建物などは、国の重要文化財や史跡としてされています。また、国の名勝に指定された日向山を背後に望む美しい庭園が、邸宅の一角に造られています。毎年春季と秋季には特別公開の期間が設けられていますので、ぜひ訪れてみてください。(新近江名所圖會第405回参照)

(中村智孝)

アクセス

【公共交通機関】日向山登山口まで:JR草津線手原駅から東へ徒歩40分。

【車】国道1号高野交差点から県道12号を南西方向へ約1.2㎞。山頂へは「日向山登山口駐車場」より登る。 

 ▷登山口から山頂までは、721段の階段を上がる。(約25分程度。)

<参考文献>

・栗東町史編さん委員会編『栗東の歴史』第一巻 古代・中世編 1988

・滋賀県教育委員会、(財)滋賀総合研究所 『滋賀県中世城郭分布調査2』1984

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