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新近江名所図会

新近江名所圖會 第420回 大溝城下町ぶらり旅―高島市勝野―

高島市

 今回は春~初夏の町歩きにぴったりな散策スポットをご紹介したいと思います。JR湖西線近江高島駅の周辺には、かつて大溝城とその城下町が形成されていました。既に大溝城や城下町、周辺の見どころなどは、第66回第202回でも紹介されているのですが、歩いてゆったりと、そしてディープなスポットを巡る散策コースをご案内します。

【近江高島駅~大溝城・乙女ヶ池】

写真1 大溝城天守台の石垣

 近江高島駅を降りると大きな「ガリバー像」がお出迎えをしてくれます。この像は市町村合併前の高島町時代にまちづくりのシンボルとして建てられたものです。

 駅前ロータリーから東側の琵琶湖方面へ少し歩くと大溝城や乙女ヶ池があります。大溝城は織田信長の甥にあたる織田信澄(のぶずみ)により、天正6年(1578)に高島郡の支配拠点として築城されました。縄張り(設計)は明智光秀によるものとされ、大溝城の南東に広がる乙女ヶ池(おとめがいけ)は、城の外濠としての機能も果たしていました。大溝城そのものは豊臣秀吉の世になり一部が解体され、瓦や部材は甲賀市にある水口(みなくち)岡山城へと移されました。その後、元和(げんな)の一国一城令により三の丸を残してすべて破却され、信澄段階の遺構としては天守台とその石垣が当時の姿を現在に伝えています(写真1)。

【大溝城~大溝陣屋総門・城下町】

写真2「町名」がしるされた標石

 元和5年(1619)、伊勢国上野より大溝藩主として分部光信(わけべみつのぶ)が入封し、大溝城三の丸付近に陣屋を構えました。以後、分部氏は12代を数えて明治に至るまでこの地を治め、城下町が整備されていきました。

 さて、大溝城下には当時の町割りが現在に残るとともに、かつての「町名」や由来が示された標石(ひょうせき)が各所に設置されています。標石は勝野町・六軒町・長刀町・船入町・江戸屋町・蝋燭町・十四軒町・職人町・石垣町・西町・伊勢町・紺屋町の合計12カ所があります。大溝城から東側の大溝漁港付近に勝野町の標石があり、ここが南端となります。すべてを回ると何かもらえる…というわけでは残念ながらないのですが、城下町を散策しながら標石を探すのも楽しいかもしれません(写真2)。

写真3 リニューアルされた総門

 大溝漁港から標石を見ながら北西に進むと大溝陣屋の正門であった「総門」があります。この総門は南の武家屋敷地と北の町人地を分ける境となっていました。総門は大溝陣屋で唯一現存する建造物で、市指定文化財となっています。ちなみに私が小学生の頃(約30年ほど前)には「高島文庫」という文房具屋になっていた時代もありました。が、復原整備され、このたび2024年4月に案内所を兼ねた施設として美しくリニューアルされました(写真3)。

 総門の北側には南北に延びる4つの通りがあります。一番東側の通り沿いには江戸中期創業の銘酒「萩の露(はぎのつゆ)」の醸造蔵や築200年の旧商家を改修した店舗が軒を連ねています。また、西側の3つの通りには、道路の中央に「町割り水路」と呼ばれる飲用・防火用として利用されていた生活用水路が現在も残っています(写真4)。

 

写真4 城下町に残る町割り水路

【大溝城下町~武家屋敷・古式水道】

 城下町から西側のJR湖西線を越えると、見落としがちですが、武家屋敷跡や古式水道を見ることができます。武家屋敷は大溝藩の重臣であった笠井氏の住居で、現在は屋根にトタンが被せられていますが、内部はほぼ江戸時代の間取りを残す唯一現存している建物です(私有地のため内部を見学することはできません)。

 また、古式水道は城下町南西にある日吉山の山水や良質の湧水地からいくつかの沈砂槽を経て引水されたもので、「タチアガリ」と呼ばれる分水施設を見学できます。現在も絶えることなく水が流れ続けています(写真5)。大溝城下での発掘調査においても上水の配水管となる竹筒とジョイントとなるマツ(松)製の角材が出土しており、「町割り水路」以外にも上水道施設が整備されていたことがわかります。

写真5 古式水道の「タチアガリ」

【古式水道~圓光(えんこう)禅寺(大溝藩主分部家墓所(わけべけぼしょ))ほか】

 古式水道からさらに西側に進むと藩校脩身堂跡の標石があります。天明5年(1785)に近江の諸藩に先駆けて開かれた藩校があった場所です。

 ここから山手に向かって少し坂道を上ると、分部氏の菩提寺として伊勢上野から移された圓光禅寺に至ります。寺内には大溝の地で没しなかった初代と七代を除く分部氏歴代の墓標が残されています(写真6)。圓光禅寺に隣接して瑞雪禅院や大善寺、日吉神社といった寺社が建ち並び、このうち瑞雪禅院には、大溝で没した江戸時代後期の北方領土探検家である近藤重蔵(じゅうぞう)の墓もあります。

写真6 圓光禅寺(大溝藩主分部家墓所)

 かなりディープな(マニアックな?)見どころをご紹介してきましたが、比較的コンパクトにまとまり散策のしやすい大溝城下町をどっぷりと堪能してみるのはいかがでしょうか。

(小林裕季)

アクセス

【公共交通】JR湖西線近江高島駅下車徒歩約5分

【自家用車】高島びれっじ※等に専用駐車場あり

※高島びれっじ:旧大溝城下町勝野地区の旧国道161号沿いを中心に、旧商家を改修した風情のある町並みで、飲食・物販・体験などの商業施設がある。

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