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新近江名所図会

新近江名所圖會 第384回 江戸時代の町人文化を伝える―大津祭曳山展示館

大津市

JR琵琶湖線の大津駅と京阪石坂線のびわ湖浜大津駅周辺に広がる町並みは、江戸時代には「大津百町」と呼ばれていました。戦国時代に大津城の城下町として誕生したあと、江戸時代になると東海道・北国海道の宿場町として栄えました。また、琵琶湖の水運を利用して運ばれた米などの物資が集まる港町でもあり、地理的に恵まれた立地と豊かな経済力を背景に当時の東海道筋では有数の都市として存在していました。

写真1 大津祭の様子
写真1 大津祭の様子

今年(2022年)、この街並みに「コンチキチン」とにぎやかなお囃子が久しぶりに鳴り響きました。新型コロナウイルスの感染拡大によって2年間開催が中止されていた「大津祭」が、10月8日(宵宮)と9日(本祭)の両日に3年ぶりに開催されたのです。曳山が巡行する本祭の日は午後からは天気が下り坂になる予報でしたが、久しぶりのお祭りを見ようと多くの人が見物に訪れていました。(写真1)

◆おすすめPoint
天孫神社(四宮神社)の秋の例祭として開催される「大津祭」は、長浜の曳山祭、近江八幡の左義長(さぎちょう)と並んで湖国三大祭のひとつに数えられており、国の重要無形民俗文化財に指定されています。この祭は町人が狸の面をつけて踊ったことに始まると伝えられており、その後京都祇園祭の山鉾を手本として曳山の原型が造られたとされています。もともとは曳山に加えて仮装行列の「ねりもの」が一緒に巡行する祭として行われていましたが、徐々に「ねりもの」をやめて豪華な曳山に変える町が増えていき、江戸時代後期の安永5年(1776年)には現在の13基より多い14基の曳山が造られていました。明治時代になると「ねりもの」を行う町はなくなってしまい、現在のような曳山が主体となる祭になりました。

写真2 大津祭曳山展示館
写真2 大津祭曳山展示館

三輪二層の構造をした曳山には、ふたつの特徴があります。ひとつは能や中国の故事などを題材にした「カラクリ」が上層に備えられていることです。曳山が巡行する中に設けられた「所望(しょうもん)」と呼ばれる場所では、さまざまな人形などがくり広げる精巧で風流なカラクリが披露され見物人を楽しませています。もうひとつは、曳山に飾り付けられた幕や飾り金具などの懸装品(けそうひん)です。そのなかでも、曳山の後側を飾る「見送り」と呼ばれる幕はとくに大きく豪華で、なかには16世紀にベルギーのブリュッセルで作られたものもみられます。江戸時代になって造られた曳山の多くは、江戸時代後期の文化~文政期(1804~1830年)に修繕や懸装品の新調が行われたようで、より華麗になった姿が現在に伝えられています。

◆周辺のおすすめ情報
大津祭の魅力を伝える「大津祭曳山展示館」は、中町通りにある丸屋町商店街のなかにあります。(写真2)館内には、原寸大に作られた曳山のレプリカやそれぞれの曳山で使われている幕や飾り金具などが展示されています。祭の様子を伝える映像なども見ることができ、いつでも大津祭を体感することができる施設です。ぜひ、訪れてみてください。
(中村智孝)

《主な参考文献》
大津市役所 1981 『新修 大津市史 4 近世後期』

◆アクセス
「大津祭曳山展示館」大津市中央1丁目2-27 丸屋町商店街(アーケード内)
【公共交通】JR大津駅から徒歩10分。京阪電車石山坂本線びわ湖浜大津駅から徒歩5分。
【自家用車】名神高速大津IC下車 5分
※駐車場なし。近隣の公共駐車場をご利用ください。

開館時間:午前9時~午後6時(最終入場:午後5時30分)
休館日:月曜日(祝日・振替休日の場合は開館。翌日休館) 12月29日から1月3日
※なお、最新の情報は「大津祭曳山展示館」のホームページでご確認ください。

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