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「幽霊画」(清瀧寺徳源院蔵)

新近江名所図会

新近江名所圖会 第109回 「清瀧寺徳源院」その2 ―清水節堂の「幽霊画」―

米原市
米原市清滝

米原市清滝にある清瀧寺徳源院(せいりゅうじとくげんいん)は、鎌倉時代中頃から続く武家の名門・京極家の菩提寺として知られています。これまで文書を中心にその歴史や姿が捉えられてきましたが、近年に同寺院周辺で行った発掘調査では中世の建物や井戸の跡などがみつかり、京極高次や京極忠高の行った整備など、これまで知られていなかった多くのことが明らかになりました。
第17回では同寺院の歴史と外観を中心にお話ししましたが、今回はその第2弾として見所満載でお話しできなかった所蔵品のひとつを紹介します。

おすすめPoint

「幽霊画」(清瀧寺徳源院蔵)
「幽霊画」(清瀧寺徳源院蔵)

清瀧寺徳源院には、京極氏に関わる貴重な資料が大切に保管されています。江戸時代中頃に同寺院を中心に描かれた絵図をはじめ、京極氏にまつわる記述を書き留めた文書類、歴代当主の肖像画や木像、使用された食器類や籠など、実に様々なものがあります。
ところが、なかには京極氏とは関係のない一風変わった資料もあります。今回はその中から「幽霊画」を紹介しましょう。幽霊画は“坊や~良い子だ ねんねしな♪”で始まる「まんが日本昔話」でも取り上げられており、小さい頃の少し怖くてクスリと笑える思い出とともに御存じの方も多いかと思います。
清瀧寺徳源院に保管されている絵画は幽霊画の世界でも傑作といわれていますが、長い間作者がわからないままでした。地道な研究によって、現在では現在の長浜市大路町出身の画家「清水節堂」(1876-1951)が描いたものであることが判明しました。清水節堂は、現在では近代を代表する画家の一人といわれていますが、近年までその作品が正当に評価されることはなかったようです。
節堂は東京芸大の前身である東京美術学校に入学しますが、貧困のため1年を経ずして退学しました。しかし、その後も同校の教官の下で研鑚します。結婚も家格の不釣り合いという理由から成就せず、生涯独身を貫いたといわれています。山水画・人物画・仏画など多彩な作品が残されていますが、描きたいものを描くのではなく、生活のために縁起物など注文品を描くことがほとんどであった彼にとって、幽霊画は自発的に描いた唯一渾身の作品といえます。表装(掛け軸の縁)を絵画の中に描く「描表装(かきびょうそう)」といわれる技法を用い、風になびく表装に幽霊を重ねることで、幽霊がいまにも掛け軸から抜け出してくるかのようなリアリティーあふれる斬新な構図となっています。節堂の幽霊画は、伝統的な日本画の精緻な描法に、西洋で生まれた遠近法を駆使した大胆かつ繊細なもので、当時の最先端3D絵画ともいえます。
この幽霊画は京極氏にはゆかりのないものですが、個人蔵であったものが現在は同寺院にあるということです。通常展示されているものではなく、これまで年に1度、秋に4日間だけ開催される『寺宝展』で公開されてきました。実際に近くでみると幽霊の身長は約180㎝と以外に大きく、等身大の迫力があります。1度目を合わせるとなかなか脳裏から離れない、清瀧寺徳源院の幽霊画に逢いに行ってください。

周辺のおすすめ情報

春の清瀧寺徳源院境内~導誉桜と三重塔~
春の清瀧寺徳源院境内~導誉桜と三重塔~

第17回では、清瀧寺徳源院とともに「清滝」の四季折々の景色、「清滝大松明」という勇壮で幻想的な祭り、戦国武将が宿営した「成菩提院」、徳川家が江戸時代初期に上洛の際の宿泊・休憩所とした「御茶屋御殿跡」、中山道柏原宿を中心に解説されている「柏原宿歴史館」を紹介しました。
これ以外にも、清瀧寺徳源院の約500m南東の丸山には鎌倉時代の討幕計画の中心人物で佐々木導誉(京極高氏)に最終的に斬首された「北畠具行(きたばたけともゆき)墓」、倭武尊が傷を癒した居醒(いさめ)泉とされる「白清水」、近江と美濃の国境に細い溝ひとつを隔てて並ぶ宿の話が筒抜けであったことから生まれたといわれる中山道沿いの「寝物語の里」など、数多くの見所があります。
清瀧寺徳源院とその周辺は、歴史、景観、保管されている様々な資料、どれをとっても貴重で、何度でも訪れたくなる場所です。
*拝観料:300円(庭園拝観などは要予約)
*資料は常時公開されているものではないので、見学は事前に寺院にお問い合わせください。

*参考文献等
清瀧寺徳源院の歴史や発掘調査結果については、 滋賀県教育員会・財団法人滋賀県文化財保護協会2012『清滝寺遺跡・能仁寺遺跡』をご参照ください。

アクセス

・JR東海道線柏原駅から徒歩約20分
・北陸自動車道米原ICまたは名神高速道路関ヶ原ICから車で約15分


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(中川 治美)

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