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調査員オススメの逸品 第198回 井戸に埋められた犂(からすき)の謎-草津市中畑遺跡出土犂
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犂とは牛馬に引かせて田畑を耕す農具のことです。トラクターが普及する昭和30年代以前には全国で広く使用されていました。
今から20数年前のことになりますが、草津市の中畑遺跡で井戸を掘っていたときに、平安時代の犂が出土しました。当時、犂の出土例は全国で数例しかなく、しかも中畑遺跡の犂は全形がほぼ完存するという良好な状態で出土しましたので、慌てて犂のにわか勉強をしたことを思い出します。
犂が出土した井戸は、縦板を組み合わせた一辺90㎝の方形の井戸枠を備えており、それを据えるために直径4m以上の大きな掘方を掘っていました。井戸枠は掘方の端に寄せて設置されており、井戸枠の外側から犂が横たわった状態で出土しました。出土した犂は土を耕す鉄製の刃先ははずされていました。そのほかの部分は完存していましたが、牛馬と紐でつなぐ身の先端は意図的に折られた状態を示していました。犂には使用痕がみとめられ、十分に使用できる状態であり、壊れて使用できなくなったものを廃棄したとは考えられません。井戸枠のサイズには比して不釣り合いな大きな掘方を掘っていることや井戸枠を掘方の中心ではなく一方へ寄せていることから、井戸をつくる当初から犂を井戸の掘方の中に埋めるつもりであったと考えられます。そして埋めるときに犂の身の先端を折っていることも何やら意味ありげです。
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なぜ井戸の掘方に犂を埋めたのであろうかという疑問がすぐに浮かびました。井戸をつくる際には、浄水が絶えず湧き続けることを願ってまじないの道具が埋納されることがあります。しかし犂はそのような祭祀具として用いられるものではありません。ただ、民俗例には井戸を廃棄するときのまじないとして犂を用いる例があるようです。犂を構成する部材に「タタリ」と呼ばれる材があるのですが、これをはずした犂を井戸枠の中に埋めるというものです。つまり、「タタリ」がない状態の犂を埋めることによって「祟り」なしを願うまじないです。しかし中畑遺跡の犂は「タタリ」部分も残っているので、民俗例の使い方とは異なります。
結局この問題についての名案は得られず、報告書にも犂を埋納した意味については記載することができませんでした。その後も似た事例が発掘されることもなく、私にはいまだに解決できない難問を残している逸品です。(平井美典)
《参考文献》
滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会(2005)『中畑遺跡Ⅱ』