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調査員の履歴書

『インタビュー/調査員の履歴書』№23  人材育成/いま一番の楽しみは「若手の試み」の先

Q お名前とご所属をお願いします。

A 瀬口眞司です。いまは企画整理課に所属しています。

Q これまで2回インタビューしてきました。最初は2022年で、学生時代の思い出を聞きました。2回目は2023年で、そのころ従事していた「中期計画」策定業務の話を聞いています。今回は企画整理課のお仕事の内容と、いま特に気にしているお仕事のお話を聞かせてください。

A 企画整理課は、発掘調査で得られた資料を整理していくセクションです。併せて、組織の将来展望を画策し、組織の持続可能性を企てていくセクションでもあります。

 いま気にしていることはたくさんありますが、将来展望を画策していく中で、一番気にしているのは人材育成のことです。人材は組織で最も重要な資源ですが、それだけにその維持・育成は難題です。

Q どんなところが難しいのでしょう?

A たとえば、当協会の幹となる仕事は発掘調査とその成果の報告・公開ですが、その仕事を遂行していくためには、専門的な知識と技術の2つがやっぱり必要です。ややこしいのは、とりあえずこの2つをインストールすれば、人材育成完了とはならないことです。

 特に技術は、身体能力である技能(skill)がベースとなります(大西2025)。それだけに、言葉で教わればマスターできるわけではありません。感覚的なコツが必要な場合も多く、だからこそ繰り返し体験・経験し、失敗を生かして調整・修正していく必要があります。技術の世界では「知っている」と「できる」は別物。情報として知っていても、実現できるとは限らないところがポイントです。

 そのあたりを意識しないと、せっかくの研修やOJTも効果はおそらく生まれず、「知っているけど/できない」症候群が氾濫し、職場で喜劇と悲劇が多発していくように思えます。文化財の世界に限らず、いろんな職場の方々がそんな状況で悩んでいるのではないでしょうか。

Q だとすると、これからどんなことが必要になってきますか?

A 私も悩んでいる一人なので、確たることは言えません。でも、うまくいっている組織では、まず基礎的な知識のインストール──例えばマニュアルの共有や机上研修──があり、その知識を踏まえた体験や経験、そこで生まれた失敗を生かして体に技能を浸み込ませているように見受けられます。自分の経験でいうと、先輩や同僚の仕事を真似して自分専用のマニュアルやチェックシートを自作しつつ、失敗を踏まえて改善していく作業が一番勉強になりました。

Q そこにはどんなメリットがあったのでしょう?

A いまでいう「タイパ」は決してよくないのですが、仕事の流れや「できていない」ことを可視化でき、改善すれば「できる」に近づけることなどがメリットだったかもしれません。なにより、同僚や先輩にも相談しながら、あれこれ試行錯誤していく過程が、うまくいく理由/いかない原因を知る一番のチャンスになりました。そう考えると、自分専用のマニュアルやチェックシートを自作するワークショップなども、人材育成の一助になるかもしれません。

Q ほかにはどんなことが試していけそうですか?

A 当協会では令和5年度に『第六次中期計画』を策定し、それを踏まえて「人材育成アクションプラン」を作成しました。いまはそのプランに基づく「キャリアマップ」を共有し、試行錯誤しているところです(写真1)。

写真1 当協会の「人材育成アクションプラン」と「キャリアマップ」

 昨年末あたりからは、とても素敵な試みも見えてきました。若手の職員さん達が、自分たちで自主的な勉強会を始めたことです(写真2)。ポイントは、知識だけでなく、技能にも目配りをしているところ。遺物の実測勉強会や上記のようなワークショップの準備など、体験や経験を重視した試みも進めているようです。きっとモノになるような気がしています。

写真2 若手職員主催の学習会の様子

 この勉強会がよりナイスなのは、ほかの市町や他県の若い職員さん、あるいは学生さんにも声をかけてくれているところです。相互補完と相乗効果、切磋琢磨といった素敵なワードが思い浮かびます。とってもいい試みだと思います。きっとその先には、いろんな花が次々と咲き誇っていくのだろうなぁと。これがいま一番の楽しみです。

参考文献 

大西秀之 2025 『リシンキング・ヒューマンズ: 文化で読む人間科学』臨川書店

(瀬口 眞司 企画整理課 / 【瀬口眞司の社会貢献活動はコチラ】)

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